tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

「わかる」とは何か

「わかる」とは何か (岩波新書)

「わかる」とは何か (岩波新書)


著者は日本の情報科学の大家で、実は私の出身高校の大先輩でもある。


題名から想像されるような教育関係の内容ではなく、科学技術と社会との関係を論じた本。科学的説明とはどういうものか、推論の方法(帰納、演繹)など基本的な事柄を説明した後、問題点を洗い出していく。


まずはじめに推論の問題。確率的に正しいとしかいえない言説、過度の一般化、原因と結果の自己回帰性、など信頼性を低下させる可能性がたくさんあることを指摘し、信頼性を上げるために、複数の推論のプロセスによって説明することを挙げている。次に科学的説明を表現するための言葉の問題。文法、単語、文脈などから来るあいまいさを例示し、客観性を高めるためにはどのような言葉遣いをすればよいかを説明している。最後に科学技術のこれからのあるべき姿を論じている。


トピックとして面白かったことを紹介。「理解できた」と「わかった!」の違いについては、普段感じていることではあるをうまく説明してあった。前者は論理的に自分の持っている知識と整合的であるということ、後者は自分が持っている関連した知識からそのことを解釈できる状態になったこと。つまりはミッシングリンクが埋まったときに「わかった!」という気になるのだという。これは納得。ミッシングリンクがかかりやすいような説明ができる人を話がうまいと言うのだろう、と思った。


もうひとつは科学技術に対する著者の見解で、20世紀がアナリシスの時代で、21世紀はシンセンスの時代になるというもの。シンセンスとは合成・創造のことで、そのため自分が作り出したものに対する説明責任がますます高まるだろうとのこと。この辺は工学的発想かな。でも確かに今まで学問の名前は○○学というのが多かったけど、徐々に○○工学という名前が増えてきて、エンジニア的な視点が他の分野に波及している気もする。


2001年発行ではあるが、改めて読んでみる価値はある。