リスク
- 作者: ピーターバーンスタイン,Peter L. Bernstein,青山護
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/08
- メディア: 文庫
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- 作者: ピーターバーンスタイン,Peter L. Bernstein,青山護
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2001/08
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こんな面白い本を今までスルーしていたのが悔しい。ハードカバーの和訳が出たのが1998年。文庫が2001年。日経ビジネス人文庫なのが原因かもしれないけど、もっと有名になってもおかしくない。
「リスク」を縦糸に壮大な科学史を語っているのが前半。ルネッサンス以前、クジや占いはあってもまだ確率という概念もないころの、黄金比や「ゼロの発見」のエピソードから物語は始まる。カルダーノ、パスカル、フェルマらによって、確率、統計が科学として生まれていく過程は、知識としては知っているものの、歴史上のできごととともに、問題が具体的に説明されているので、彼らのたどった思考の道筋をトレースできて楽しい。はじめての計量的なリスクマネジメントといえる、グラント、ハレーによる死亡調査を用いた年金保険の設計。これは以外と知られていない(私ははじめて知りました)ので、一読の価値あり。そして、ダニエル・ベルヌイ、ヤコビ・ベルヌイ、ラプラス、ガウスらによる確率論の成立。大数の法則や正規分布が発見される様子は歴史としても面白いし、数学的にも豊富な例で説明されているので、副読本にもしていいくらい。
後半はいよいよ金融工学が主題になる。よくわからない不確実性を人間の制御可能な対象とするリスクとしてとらえったこと、マーコビッツの有名なポートフォリオ選択理論として花開いたこと、そして最近流行の、投資家の行動を心理学的に分析すること。これらにかなりのページを割いていて、下手な金融工学の入門書なんかよりもずっとわかり易い。なぜ人は時に合理的な選択をしないのか。リスクをヘッジするためのものだったデリバティブがなぜ新たなリスクを生み出したのか。などという問いにも答えを与えている。
単なる解説書ではなく、どのようにリスクを取り、またリスクを避けていくべきかということを考えさせる本。最終章にもあるように、過去の限られたデータから作られた理論やモデルには常に異常値や不完全さが潜んでいる。そこに将来出会うであろう「野性が待ち伏せ」ているのだろう。