創発
- 作者: スティーブンジョンソン,Steven Johnson,山形浩生
- 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
- 発売日: 2004/03
- メディア: 単行本
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粘菌とアリの話から始まる。なぜ粘菌という原始的な有機体が知性を持つかのように振舞うのか。個々のアリの行動を支配するような命令体系はないのにもかかわらず、アリの巣がどうしてあのように発達するのか。そして、人間社会はどうして都市を作り出したのか。
これらの疑問に答えるキーワードとして自己組織化という概念に焦点を当てて話は展開していく。個々の単純な相互作用のルールから複雑なシステムが生まれるという、カオス、複雑系、などからつながる話。
局所的な知識からマクロな知性と適応能力を持つシステムを作るための五原則として
- 多いことは違うこと。(個体数はある数以上いるということ)
- 無知は役に立つ。(構成部品は単純であること)
- ランダムな出会いを奨励しよう。(ランダムな相互作用を通じて学習をする)
- 記号の中のパターンを探せ。(パターン検出のためのメタ情報が出回る)
- ご近所に注意を払え。(局所的なやりとりが全体の知恵になる)
を挙げている。これらの状況の下で全体がシステムとして発達するのはなぜか、ということを理解することが『創発』なのだろう。
アリの世界から始まった自己組織化の話は、当然のごとく「脳」と「WWW」をその俎上にのせる。後者の研究は20年前のカオス理論の研究者にはできなかった。現在の研究者は創発的システムの典型的な例として、WWWを分析し、その上で実験し、様々なパターンの原因を探求することができる。最近のブームはそういう一面もあるのかな。この本では、サーチエンジン、アマゾンの推薦システム、スラッシュドットの評価システムなどにも言及。IT系で良く見られるようなツールとしての議論や、設計の議論などとは異なる視点で、議論の間に縦糸をすうっと通したような、そういう印象です。