tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

ジーニアス・ファクトリー

ジーニアス・ファクトリー

ジーニアス・ファクトリー

信じがたいことかもしれないが、この物語はノンフィクションである。題名は「天才工場」であるが、中身は「ノーベル賞受賞者精子バンク」である「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」の創設者、協力した科学者、利用者たちを巡る物語。

以前に読んだ『人間の終焉』では遺伝子工学による人間をデザインすることの危険性が論じられていたが、それよりは穏便ではあっても遺伝子を選ぶということが現実に存在していたことに驚く。この精子バンクではドナーの経歴(偽りありだったりするが)や肌、髪、目などの特質をカタログのように並べてあり、顧客はその中から選ぶことができるそうだ。だがこのドキュメントはそういう優生学的なことの是非を問うというよりも、それで子供を授かった家庭とドナーを探す過程が物語の中心である。

「育ちよりも氏」だとしてよい遺伝子を次の世代に与えることを目的としたこの精子バンクのエピソードからは、結局のところ逆に「氏よりも育ち」ということを証明しているようで面白い。多くの場合ドナーの影響よりも、母親および周りからの環境や教育に強い影響を受けているように思える。優秀な知性を持った子供が誕生している例も挙げているが、幼少時からマスコミに取り上げられ人々の好奇心の目に晒されて、人生が歪まされてしまった。ドナーを探す母親の物語では、はじめは子供の父親を探すのに多くの情熱を傾けていたのにもかかわらず、実際に見つかると急速に情熱は冷め、むしろドナーとの接触を拒否するようになる。このような計画に賛同して積極的に協力するようなドナーは、レイシストだったり、強烈な自意識を肥大させていたり、そんなかなり変わった人が多いようだ。そういう人間がドナーだとわかってもうれしくないのだろう。

ドナーや精子バンクを利用した家族の追跡調査をした結果を何度か述べているが、必ずサンプルにはかなりのバイアスがかかっていること、統計的には有意ではないことを繰り返し強調しているところは、まともな本だという印象。