tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

スモールワールド

スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス

スモールワールド―ネットワークの構造とダイナミクス

原書は1999年の出版だから、ここ数年のこの分野の発展ぶりからすれば、古いと言う感覚もあるが、数多くの啓蒙書ではなく、専門書として日本語で読めるものが出たのはありがたい。本来は1か月ぐらいかけてじっくり読むべきなのだが、軽くななめ読みしてみたのでレビューしてみる。個別の概念やモデルについて調べたり考えたりしたことは、また改めて、ということで。

一番多くのページを割いている第3章の「広い世界と狭い世界---グラフによるモデル化---」と第4章の「解釈と考察」がスモールワールドを研究するための道具を与えてくれるところ。その中でスモールワールドグラフと言うクラスを次のように主張している。

高度にクラスタ化されている一方で、固有パス長、及びそのグラフの大きさへの依存性がランダムグラフと同等であるグラフのクラスが存在する。これをスモールワールドグラフと呼ぶ。

実際にいくつかのモデルに対して、固有パス長やクラスタ係数がどのように変化しているかの数値計算の結果が載っており、結果だけでなく研究のプロセスもわかって面白い。

後半第II部はいくつかのテーマに適用した例。個人的に興味を持ったのはグラフ上でのゲームを扱った第8章。繰り返し囚人のジレンマにおける協調の創発現象を、グラフ上で行った場合にはどうなるかの考察。グラフの頂点をゲームのエージェントとして、辺で連結された複数のエージェントとNプレーヤー囚人のジレンマゲームを繰り返した時に、一般化されたしっぺ返し戦略が協調を呼ぶかどうかを、グラフの構造から分析している。ランダムグラフでは協調がうまく行かず、スモールワールドではうまく行く、との結論。

以下雑感:

  • ショートカットを持つエージェントが得をしているのかどうかまでは触れていなかったが、グラノベッターの有名な仮説を計量的にモデル分析することもできそうな気がします。
  • スケールフリーネットワークでエージェントが特徴的な振る舞いをするゲームとはどういうものだろう?