tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

αを探せ!

αを探せ!最強の証券投資理論――マーコヴィッツからカーネマンまで

αを探せ!最強の証券投資理論――マーコヴィッツからカーネマンまで

第1章の最初の囲みは次のような文章である。

αとは市場全体の動きに起因するのではなく、運用者の技量に起因する利益を表す。

「市場に打ち勝つ=αを取り出す」ための理論や投資戦略がこの本のテーマ。ちなみにCAPM理論に現れるβとは市場全体の動きと個別銘柄やポートフォリオを比較するための指標のことである。そう、予想どおり、まずはマーコビッツの効率的フロンティアとシャープのCAPMの話からはじまる。その後、効率的市場仮説とインデックスファンドの話、アクティブファンドの運用資産の大きさと取引コストの関係、など市場に打ち勝つことができるかという疑問に対する学者や投資家のいくつかの答えを紹介しながら投資理論を復習する。

中盤はいろいろな投資戦略をデータをもとに(最近のデータに偏りすぎている気もする)分析する。予測は技術革新があってもほとんど進歩していないが、市場のアノマリーを探して裁定取引をすることで利益を得る方法は今も昔もあり、裁定機会を見つける方法は技術革新で進歩している。αを取り出そうとする(裁定取引)で市場の効率性が上がり、αは減少してしまう。市場が通常の状態にないとき(ほとんどの銘柄が同期して暴落してしまうような場合)にリスクが発生してしまう。などのテーマを市場の動き、投資戦略、金融商品など具体的に説明している。

もっとも読みたかった(これが目的でこの本を読んだ)のは、行動ファイナンスに関する章。経済学では投資家は合理的な行動をとる、ということを大前提として理論を構築しているが、実際にはしばしば非合理な行動をとる。人間の利益やリスクに対する行動傾向の分析や、それが市場にどう影響を与えるか、それを逆に利用して利益を得ること(αを取り出すこと)ができるか、などの話。若い分野独特のワクワク感があって面白かったが、1つの章に無理やり押し込めた感じで少し物足りなさも。


アメリカンフットボールやシャンパンの話を枕にして、たとえ話を交えながら投資理論を説明していくやり方もとてもわかりやすくていい。ある程度の基本的な用語の意味を知っていないと読めないかもしれないけど、それほど難しくはない。証券投資理論をコンパクトに一通り概観するのにとても良い本です。惜しむらくは索引がないこと。索引と簡単な用語解説が付録でついていたらよかったのにな。


日本の金融関係の本は、理論ガチガチの本か、理論なきハウツー本、最新理論の解説本、みたいな感じでこういう全体のサーベイをする本がなぜか少ない。書く人材がないのかもしれない。

個人投資家もプロがどういう理論で投資行動をしているのかを知っておく意味でも読んでおいたほうがいいんじゃないかな。少なくとも長期的な投資のセンスを磨くには儲けた人が自分の自慢話をするハウツー本よりはずっと役に立つと思うぞ。