tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

行動ファイナンスと投資の心理学

行動ファイナンスと投資の心理学―ケースで考える欲望と恐怖の市場行動への影響

行動ファイナンスと投資の心理学―ケースで考える欲望と恐怖の市場行動への影響

行動ファイナンスの本を読むのはこれが2冊目。最初が新書だったから、本格的な本はこれがはじめて。かなり内容が深いのでなかなか理解し切れていない部分もあるが、行動ファイナンスの研究者が、実務家にもわかりやすいようにさまざまな事例を用いて解説している。どうしても事例はアメリカのものだから、日本の読者にとって難しい部分もあるのですが。

最初の章が概念的な部分で、3つの大きなテーマ、ヒューリスティクスに起因するバイアス、フレーム依存性、非効率な市場、について説明している。フレーム依存性に関する証拠を挙げたプロスペクト理論については以前新書の感想を書いたときに少し触れたので、非効率的な市場について、この本をもとに少しまとめてみよう。


効率的市場仮説と言うのは1970年に Fama が発表した歴史的論文の主張で、情報は市場価格に織り込まれていて、収益機会がそのまま放置されていること(割安株があるということ)はない、というもの。その帰結として、市場を出し抜くことは不可能だからインデックスに投資するのがよい、と言う結論になる。

ところが近年市場が非効率であるという証拠が多数発表されてきた。それを行動ファイナンスはどのように説明するのか。非効率性の原因として、投資家のヒューリスティクスに起因するバイアス(企業の業績発表に対する投資化の過剰反応)、情報を市場参加者が学習するのに時間がかかること、などにあるとする。


概念的な話の後は、個人投資家や機関投資家の行動について行動ファイナンス的な視点から解説をしている。いくつかキーワードだけあげておこう。

  • 損得ゼロ症候群
  • 自己帰属バイアス
  • 近視眼的リスク回避
  • 快楽的フレーム化


本書で何度も警告されているように、今まで説明できなかったことを行動ファイナンスで説明できるようになった、ということと、行動ファイナンスを用いて市場で利益を上げることができるか、と言うのは別問題。念のため。

人工市場の研究では、バブルや暴落の再現、価格変動のなす分布(正規分布以外)の再現、などがテーマになっていると思うんだけど、市場参加者を、エージェントとしてではなく、情報に対する行動にバイアスを持つ、ということを組み込んだモデル、つまり行動ファイナンスのエッセンスが考慮されたモデルに関する研究ってあるのかな?