tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

街場の現代思想

街場の現代思想

街場の現代思想

「寝ながら学べる構造主義」が面白かったので、同じ著者の本を読んでみました。

こちらは雑誌の連載や Web 日記をまとめたり、加筆したもので、ずっとわかりやすいです。「バカの壁」や「負け犬」などそのときの話題になっていることをとりあげたり、若者が疑問に思っていることについて著者が答えるという形式だったりで、気楽に読めます。

話題や文体は軽いのだけれど、切れ味は構造主義について書いた新書と同様の鋭さで、あまり人が考えないような見方を与えてくれて、「うまいこと言うなぁ」と感じてしまうことが度々でした。

たとえば、「負け犬」論議については、勝ち負けを論じることよりも「犬」という軽蔑的な名詞を配したことが、酒井さんのオリジナリティだと言い切ってしまっています。

「ここより他の場所」「ここより他の時間」に、「ここにいる私とは別の私」があり、そこにたどりつくことを「外部にある何ものか」が妨害しているという語形で自己規定する人々のことを酒井さんはおそらく「犬」と呼んだのである。

そうだったのか!負け犬が勝ち犬になる方法よりも、「犬」が人間になる方法を考えたほうがいいよね。

フリーターについても、左翼と政府が違う理由で同じ結論を語っているから混乱しているんだということをわかりやすく説明しています。多分気づいている人には常識なのかもしれないけれども、左翼的な立場からはフリーターが低賃金に甘んじていることが不満であって、政府の立場からは低賃金のフリーターが増えることで市場経済の規模が小さくなることを問題視しているのだ、ということです。まあ、どちらもフリーターのためを思って言っているわけではないってことですね。

長くなるけど、大学についての語り口も面白かったので紹介します。18歳人口の減少によって競争の時代に入った大学が行っているさまざまな改革について、

高等教育というのは弱肉強食の市場原理によって、最適な大学が淘汰を生き延びる、というような成り立ち方をしていない。

とか

受験生が大学に抱いている「夢」という「虚」と、社会が大学に要請しているスキルや知識という「実」を比較したときに、「虚」に有り金を賭ける方が「実」を優先させることより、大学が生き延びる確率は高い、ということである。

と述べて、マーケットとして出口の企業や組織よりも入口の受験生を優先すべきであると言うことや、授業のアウトソーシング化や大学のシステムのデジタル化についての問題点を指摘しています。そして最後に

今行われているあちこちの大学の教育改革のほとんどは「受験生がそれをほしがっていることがすでに自明であるところの、実定的な資格や能力」の提供を前面に押し出している。しかし、私はほんとうの教育改革は「受験生たちがその名を知らず、その漠然たる『オーラ』だけを感知し欲望しているような知見やスキル」に焦点化したものでなければ奏功しないであろうと思っている。

とまとめています。然り。学生に対するサービスであるかのような授業を求められていたときに感じていた違和感を、うまく説明してくれたように思いました。


前に読んだ新書では橋本治に似ていると思ったけど、これはパオロ・マッツァリーノにも似ているとも思いました。