tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

破産する未来

破産する未来 少子高齢化と米国経済

破産する未来 少子高齢化と米国経済

いわゆる「世代会計論」と「少子高齢化」を経済学的に論じたものです。日本のメディアや言論界、政界が、近視眼的な視点でしか世代論を語れなかったり、少子高齢化についてセンセーショナルな数字を出していたずらに警鐘を鳴らすだけで自らの役割を終えたと思っていたり、付け焼刃的なもしくは次の選挙に受けるような政策しか出してこなかったのが、とても不満でした。この本はかなり骨太ですが、何が問題なのか、定量的な試算、最悪のシナリオのときにどうなるのか、それを防ぐための政府に対する提案、個人に対する助言がまとめられていて、問題が整理できたという意味では非常に満足です。ただし数値や紹介されている金融商品などはすべてアメリカのものです。アメリカよりも早く少子高齢化社会がやってくるはずの日本はもっと準備をしておかなくてはいけないはずなのに、このようなきちんとした啓蒙書を書く経済学者はいないんでしょうか?


世代会計とは、次の世代へゆだねる財政負担を計算するための手法ですが、原理はとても簡単です。この本に何度も出てくる重要な式は次のように表されます。

A = C + D + V - T

簡単に説明すると、それぞれ

  • A 将来世代の負担
  • C 政府支出の現在価値
  • D 公的債務
  • V 潜在的債務
  • T 現在世代の支払う税収の現在価値

を表します。潜在的債務とは現在生存中の人々に保証された各種年金、健康保険、生活保護などの移転支出のことです。この式で考えると、アメリカ政府が今までやってきた経済成長策や社会保障制度改革はAの値を減らすと意味では効果が上がっていないとこの本は述べています。他にも一般に言われている国家資金の売却、退職時期の先延ばし、無駄な政府支出の削減、などがほとんど A の値を減らすことには効果がないことを上記の世代会計の基本式を使って説明しています。


「財政の相対性理論」という考え方も面白いです。若年層から、税金を取ろうが借金をしようが(国債を買ってもらう)、若年層から老年層へお金を渡しているという意味では同じで、D の公的債務における国のバランスシートの赤字黒字には大きな影響があるけれど、A の値には何の影響も与えないということです。選挙のときのマニフェストを読むときに思い出してだまされないようにしよう。


消費税に対する見方も面白いです。普通は所得税と消費税の割合を変えることが世代への影響があるとは考えないし、消費税のほうが低額所得者に厳しい逆累進的税制だとよく言われます。だが、この本では消費税は保有資産に対して課税することと同じになり、特にすでに退職した高齢の資産家の資産に課税するよい方法だと述べています。確かに、消費税率が上がる前に大きな買い物はしてしまおうと思うわけだから、キャッシュを持つことは消費税率の上昇に対するリスクなわけですね。


他にもいくつか覚えておきたいことがあるので、メモ代わりに列挙しておきます。

  • 持ち家所有は高齢化社会において税法上の特典がある(アメリカの場合だけかもしれない)
  • 個人年金は受け取り時に課税されるため将来の増税に対するリスクがある
  • 個人年金の年金定額受け取りはインフレリスクに弱い
  • 生涯限界純税率50%を超えるようだと共働きしない選択も考えたほうがいい

とりあえずこの本のアドバイスをもとに日本の現状の制度で個人がどう行動をとるのがいいか考えた方がいいなあと思ったのでした。