tkenichi の日記

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人工市場で学ぶマーケットメカニズム

人工市場で学ぶマーケットメカニズム―U‐Mart経済学編 (知的エージェントで見る社会)

人工市場で学ぶマーケットメカニズム―U‐Mart経済学編 (知的エージェントで見る社会)

人工市場研究のプロジェクトから生まれた U-Mart というシステムの紹介と、関連する理論の概説と、U-Mart を用いた実験の事例報告などをまとめたものです。現在進行中のプロジェクトなので、中間報告的な位置づけのものもありますが、一般にこのようなシステムが公開されて、使い方が書籍としてまとめられているというのは意義は大きいと思います。

U-Mart は早速やってみました(ただしマーケットシミュレータのみ)。簡単に言うと先物取引のシミュレータなのですが、よくある仮想取引と違って、参加者の行為が実際の価格形成に影響を持ちます。つまりリアルな市場の価格を使って、上がり下がりを予測して取引をシミュレートするのではなく、システムに組み込まれたエージェントたちとプレーヤー(ネットワーク版の場合は他の参加者も)の注文を毎回集計して板寄せアルゴリズムで価格を決めているのです。

実際にやってみると、操作インターフェースはオンライン証券会社の注文画面のような感じでわかりやすくよくできています。板情報や需要供給曲線などもリアルタイムで表示できて、教育的配慮も十分です。需要と供給の関係は、店での商品の価格で説明するよりも、こういうモデルを使って説明したほうがいいと思います。

第3章の解説は短いながらも先物取引の仕組みから、効率的市場仮説、経済物理学まで触れていて、うまくまとまっています。この章だけ読んでも人工市場の現状がある程度わかると思います。第6章は経済学の大きな流れの中での U-Mart の位置づけを語っていて、ちょっと大風呂敷かなという気もしなくはないけど、挑戦的で刺激的です。

いろいろいじりたくなるシステムなので、エージェントのカスタマイズの仕方とか計算機屋さん向けの情報まで本に含まれていたらもっとよかった。金融や情報、計算機関係でセミナーのネタにもなりそう。