男の子の脳、女の子の脳
男の子の脳、女の子の脳―こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方
- 作者: レナードサックス,Leonard Sax,谷川漣
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2006/05
- メディア: 単行本
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現在の社会は男女同権の流れから教育の面でも男女が同じ教育を受けることが求められています。その結果として、技術家庭の男女共修や男女混合名簿、男女別学校の共学化などの動きがあります。実際、男女別学を男女差別と同義だと捉えて批判するような政治的な動きもあるようです。
これは医学の見地から男女を同じように教えることの弊害を指摘した本です。男女には発育の差や体格上の差異があるのはよく知られていますが、脳による認識の仕方も異なるということです。その差は特に幼年期に大きく、そのため片方の性に合うようにデザインされた教育では大きくストレスを感じる可能性があるそうです。この本で挙げられているのは
- 左脳は言語、右脳は空間と言う機能の分化は男性には見られるが、女性にはあまり見られない
- 女の新生児は男の新生児よりも音がよく聞こえる
- 女性の網膜には色と質感を感知する細胞が多く、男性の網膜には位置、方向、速度などを感知する細胞が多い
- 言語や細かい手先の能力をつかさどる脳の部位は女の子の方が、標的認識や空間記憶をつかさどる脳の部位は男の子の方が早く成熟する
- 空間認知に女性は大脳皮質を使い、男性は海馬を使う
などです。
注意してほしいのは、だからといって俗に言われているような
- 男の子は女の子よりも理数系が生まれつき得意だ
- 女の子はもともと男の子よりも情緒的だ
- 女の子は協調的で、男の子は競争心が強い
と言うことを肯定しているわけではないのです。医学的な性差が直接社会的な特性の性差に結びついているわけではなく、今までの教育の仕方がそのような傾向を生んで来たに過ぎないのです。つまり、女の子の上記のような脳の性質を理解した上で理数系の教育をすれば、優れた科学者を育てることができるというわけです。そのためにはむしろ共学よりも男女別学が望ましいとしています。
これはよく言われることかもしれませんが、
共学校にはジェンダーの固定観念を強化する傾向があり、男女別の学校にはジェンダーの固定観念を打ち破る傾向がある
そうです。皮肉ですね。
本の内容はほぼ同意します。教える立場では、知らず知らずのうちに自分の受けてきた教育を踏襲する傾向があるから、現在の理数系教育(男性向けにデザインされている)をよしとする教員が教えると、それを拡大再生産してしまうのかもしれませんね。男女の性差を制度の話だけに帰着してしまうことの浅さを感じたのでした。
今の教育制度を設計する立場にある人は、こういう考え方もあるということを知っているのかな??単純に女性研究者の比率などを議論すればいいって話じゃないと思うんだけどな。