tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

未知なる地底高熱生物圏

未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる

未知なる地底高熱生物圏―生命起源説をぬりかえる

以前の日記
トンデモ科学の見破りかた - tkenichiの日記
の関連図書です。期待を裏切らない面白さです。トーマス・ゴールドと言う科学者はもとは天文物理学者ですが、生物物理や地球物理などの学際的な分野にも積極的に分け入って、正統派から逸脱する説を提唱しています。彼の唱える説がいつも正しいというわけではありませんが、着想の豊かさと大胆な仮説は他に類を見ません。確かに大胆な仮説はしていますが「トンデモ」ではないのは、仮説にいたるまでの推論の方法、仮説を検証するための方法が真っ当な科学的手法に拠っているからでしょう。

そのトーマス・ゴールドのもっとも有名な仮説が以前の日記にも書いた「石油の無機起源説」で、この本はその根拠となる「地底高熱生物圏仮説」を解説するものです。

内容を消化しきれたわけじゃないが、要点をかいつまんで書くと、

  • 地殻の奥深くには地上とは異なる生物圏がある
  • その生物圏では、地下深層にある炭化水素をエネルギー源としている
  • 地下深層の炭化水素は生物起源ではなく、地球の創成期からの地底深くにある莫大な炭化水素が上昇したものだ
  • 石油は地下深層の炭化水素から生成される

などということです。それを検証するために、高温高圧化での炭化水素の安定性の計算、石油貯蔵層の場所の分布、石油や堆積物の組成といった地質学的性質を用いています。また、この仮説が正しい場合の地震の原因、生物の起源に対する考え方も改められることを述べています。


地球の表層に住んでいる生物(人間とかね)の視点からすると、エネルギー源は太陽からの光エネルギーで、それを植物の光合成によって、動物が利用可能になる、と暗黙のうちに考えてしまうが、それがむしろ特殊で、炭化水素から直接エネルギーを取り出すことのできる生物を仮定するところが、大胆です。地球の創成プロセスや、地球と言う系全体のエネルギーを考える発想は、もともとの天文物理の考え方からきているのかもしれないです。感想としては、上質な知的刺激本、SF(Science Fiction)ならぬSnF(Science non-Fiction)*1といったところでしょうか。

*1:今作った造語