tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

インターネットの法と慣習

インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門 [ソフトバンク新書]

インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門 [ソフトバンク新書]

白状してしまうと、私は法律をまじめに勉強したことがないです。法律の専門家の知り合いはいて、彼からネットにおける商取引に関する法律論を聞いたことがありますが、この本のようなネットそのものを対象にした法律論は始めて読みました。ラディカルで刺激的で、たとえ話がうまい。法律に興味がある人よりもネット社会に興味がある人の方が面白く読めると思います。

ちなみにもとは Hotwired Japan の連載をまとめたもの。
http://hotwired.goo.ne.jp/original/shirata/index.html
本と Web の連載がどれくらい内容が違うかはチェックしていません。先に本を読んだので、Web はこれから読みます。

内容は、第1章で英米法大陸法などの歴史的経緯と、日本の法制度の比較などを紹介しています。学部生向けの法学概論をコンパクトにしたような感じかな?

第2章はネット上の権利や紛争解決の問題の現状を概観しています。そのなかで、

  • ネットワークで自立的な秩序を形成するには「名」を所有する必要がある

という提言をしています。法(秩序)による「名誉」や「評判」に関する紛争解決を行うためには、「名誉」や「評判」が結びついている「名」が必要であるということ。これは納得です。ただ私の感覚だと現在の日本のネット社会では紛争解決のためのルール作りよりも匿名性を保つことによる利益の方が全体としては大きいと考えられているのではないか?著者は「名」を賭けてネット上で活動する武士道・騎士道精神を持ってほしい、と書いているけど、こういう素朴な良心に訴えるのではなくて、匿名性を保つよりも「名」を持つことの方が高くなるような上手なインセンティブを与える(過渡的な)法システムを設計しないと変わらない気がします。インセンティブで社会システムを設計しても、それを出し抜かれるだけだよ、というツッコミはあるでしょうが。

第2章後半は知的財産権の話と権威・典礼の話。前者は知的財産権を土地と同じような所有とそれによる支配の道具となることを許していいですか、というおとぎ話。このおとぎ話はうまいです。下手に要約するのも野暮なので、本文を読んでみてください。後者の権威・典礼の話は、ネット上のコミュニケーションにおけるルール作りの話。かつては技術的な制約からさまざまなコミュニケーションルールが存在したけれど、そろそろ人間同士の交流のプロトコルとしてのルールを作ってもいいんじゃない?という提案。

第3章はネットと外の現実世界との関係を論じている。ネット上の価値を明確化してネット上の利益代表を政治(意思決定プロセス)に送り込むことが必要ではないか、ということ。

本全体が結論を出すというものではなくて、問題提起と解決案の提示をしているものです。問題提起の部分はほぼ納得できますが、解決案が他人任せ的な傾向が多いのはいまいちだけれども、ネットと法の関係を斬新な視点で見直した本だと思います。おすすめです。