進化しすぎた脳
進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)
- 作者: 池谷裕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/19
- メディア: 新書
- 購入: 38人 クリック: 186回
- この商品を含むブログ (265件) を見る
各書評で絶賛されているらしい若手脳科学研究者が高校生に行った対話形式の講義録。もともと朝日出版社から出ていたらしい(読んでいない)が、新たに1章追加されてブルーバックスで再刊行された。ブルーバックスはここ数年買っていなくて久しぶりだったのですが、大当たりでした。高校生程度の前提知識で最新の脳科学のトピックまで紹介していて、それは断片的な知識としてではなく、どこが分かっていてどこが分かっていないのか、問題意識は何かなど、その分野全体のテーマを概観しながら、個別の(著者が専門の)テーマに関しては深く切れ込む。科学の啓蒙書はかくあるべしという感じ。講義形式のライブ感も伝わって非常に面白く読めたのでした。
一番面白かったのは第一章の、脳の機能的、構造的な解説から脳とコンピュータの比較などの話。書名の「進化しすぎた脳」とはどういう意味かも分かるのだけど、ここでネタ晴らしをするのも無粋なので、読んでのお楽しみとしておきます。
第二章は視覚の問題、意識と言葉の問題を取り上げながら、脳との関係を探る、少し哲学的な内容。視覚の問題については、
世界があって、それを見るために目を発達させたんじゃなくて、目ができたから世界が世界として始めて意味を持った
と著者は語っている。意識については、著者が対談の中で最低条件としてあげているのが、
- 表現の選択
- ワーキングメモリ
- 可塑性
であり、言葉がその「典型」であるとしている。そこから人間の思考が言葉の奴隷になっていることを述べている。
第三章は人間が情報を、汎化する、抽象化する理由を神経回路の構造から説明しようとする。化学や生物が苦手ならばちょっと難しいかもしれないけれど、教科書的な知識だけでなく、科学の研究手法の一端を高校生にうまく見せることに成功していると思う。
第四章は著者の研究テーマであるアルツハイマー病の原因を探る過程を紹介。
全体の主題として、脳がからだや意識をコントロールしているという考え方からのパラダイムシフトを強調しているように感じた。著者は研究者としても一流で、話もうまくて文才もあるマルチな人だと思うので、次の著作も期待したいところだけれども、あまり啓蒙書や対談集で消費されるよりも研究で成果を出してほしい気もするのでした。