天才数学者はこう賭ける
- 作者: ウィリアムパウンドストーン,William Poundstone,松浦俊輔
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
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かなり前に友人に薦められた本。やっと読む。
これは個人投資家や機関投資家向けの投資の指南書ではない。結果としてそのように読むこともできるが、むしろクロード・シャノンという知の巨人がギャンブルをどのように考えたのかというのをたどる物語として読むのがよいと思う。効率的市場仮説、ポートフォリオ最適化、リスク評価などに興味のある人には、ケリー基準という評価方法についての解説書だと思って読むのもよいと思う。
登場人物はクロード・シャノン、ジョン・L・ケリー2世、エドワード・ソープ、ポール・サミュエルソン、ロバート・C・マートン、など。ケリーとソープは不勉強にして知らなかったが、ここではこの2人がとても重要な役割を果たす。
「ケリーの公式」として紹介されている方法とは、元手のうちのどれくらいの割合を賭けるべきかを求めるもので、エッジ/オッズで与えられる。ソープはそれをブラックジャックに応用した論文を書いて、実際にカジノで試している。ここでのディーラーとの駆け引きの話も面白いのだが、場で変わるエッジを瞬時に計算するために札読みをしなければならず、抜群の注意力と記憶力が必要なので誰にでもできるわけではない。
もちろん話はギャンブルの話にとどまらず、投資戦略の話に発展する。市場の効率性が完全でないとき、そこのは裁定取引の機会が発生するが、そこにつけこむファンドを運用してソープは利益を上げた。そこからブラック・ショールズの公式につながったりすると言うエピソードも紹介される。
エピソード的なものだけでなく、理論的な説明もかなり深い。有名なサンクトペテルブルグの賭けに関するベルヌーイの対数関数的効用による説明と、ケリーの公式が、「幾何平均の最大化」というものでつながっていることの説明にはかなりのページを割いている。一般的なマーコウィッツ流の平均分散分析による選択とケリーの基準による選択の違いの具体例の説明もあって、ここは結構わかりやすい。ケリーの基準が複利的な投資についてマーコウィッツよりも優れているという筆者の見解も納得できる。サミュエルソンによる幾何平均基準に対する批判も紹介されていて、その論争も面白い。
LTCMの破綻の物語にも1章を割いているが、これはオフトピックかな。