tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

ステルス・デザインの方法

ステルス・デザインの方法―イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技

ステルス・デザインの方法―イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技

都市デザインについての本。ステルス・デザインとは、「都市を水没させてイルカをそこに泳がせた際、彼らが音波エコーを柔らかく感じるような形状に町を設計・改良し、それによって閉塞感を減らすという構想」だそうだが、正直何を言っているんだか???の本であった。テーマ自体は誰もが否定しにくい「都市の閉塞感を減らす」というものだが、展開されている議論はまだよく練られていない。

最初は波の反射の話で、まともな議論が進むのかと思いきや、イルカのセンサーが進化の名残で人間にも残っている(だいたいイルカと人間じゃ同じ哺乳類といっても進化の系統が違うんじゃ??)とか、波長効果、共鳴効果、などなど物理学用語が使われているけれども、実際には検証がされていない議論をもとに話が進んでいく。

後半のモン・サン・ミッシュル修道院と三十三間堂についての検証部分も、自分たちに都合のいい解釈と、中でどういう計算をしているかを説明していない自分たちのグループのソフトウェアを使っての数値実験での検証を行っているのみ。現代建築よりも伝統建築の方が閉塞感は少ない、という感覚は一般に持つであろうが、そのことがこの理論の正当性を保証しているわけではないのだ。最後の応用例では、大風呂敷を広げて終わり。


アイディア自体は面白いかな、と思うのだけれど、物理理論として説明するなら理論を組み立てて、その計算方法やアルゴリズムを公開して世に問うべきだと思うし、デザインとして論ずるならイルカに説明させるのではなく、人間の被験者で感じ方の統計を取るべきだと思う。

デザインは往々にして後付けで理屈がついてくるのだけれど、デザイン論としては、以前読んだ 「誰のためのデザイン」 の方が格段によい議論をしている。