tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

サイバー経済学

サイバー経済学 (集英社新書)

サイバー経済学 (集英社新書)

2001年に書かれた本なので、今となっては注目されていないのかもしれないけれど、結構面白かったので紹介。

「サイバー経済学」という名前は著者の造語だと思う。サイバーという言葉に現在はあまりいいイメージがないので損をしているかもしれないのだが、中身は結構まじめです。前半はベイズ理論と金融工学の復習。著者は数学エッセイストでもあるらしくて、図式での説明はわかりやすい。先物やオプションなどの金融商品の仕組みの説明も明快。数学的に整理して書いてあるから個人的に理解しやすかったという面はあるかもしれないけれど。

後半はそれらを基にした金融ビッグバンや平成不況などの分析。とはいっても個々のケーススタディというわけではなく、ミクロな合理性・最適性が決してマクロ的には幸せにはならない、という見方からの解説、といったほうが良いだろう。マクロ的な非効率性を説明するモデルとして、情報の非対称性ゲーム理論・複数均衡などを紹介したり、と最近の「はやり」のモデルはひととおりおさえている。

著者はマクロ理論の特にケインズに思い入れがあるようで、ケインズ経済学のミクロ的基礎付けを行うものとして、小野理論を最後に紹介している。そこで定常状態が完全雇用であること、貨幣保有の追加的効用が低下しなくなる閾値があるときには、デフレ均衡の定常状態があること、を説明している。新書でここまで説明している本は珍しいと思う。

著者の「ブラック=ショールズの公式」に対する考え方は面白く、共感できるので、紹介しよう。

ブラック=ショールズ公式も、それ自体が金融市場の実体を正確に反映する、ということではなく、市場参加者がみなブラック=ショールズ公式を前提に取引の計画を立てている、というそのコンセンサスが、相場上での安心感を生み出し、それによって、オプション市場を成立させ、またそれが再び公式の有用度を保証する、という自己循環になっている。つまり、貨幣経済と同じように、オプション市場も、ある種共通の幻想の上に成立しているように筆者には思える。(P103)

同じことが二酸化炭素の排出権取引にも言えると思うけど、コンセンサスのとれた公式とかあるのかな?