1997年--世界を変えた金融危機
一か月以上もあいてしまいました。
- 作者: 竹森俊平
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/10/12
- メディア: 新書
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時系列的に1997年前後の金融危機についての解説をしているが、真のテーマは「ナイトの不確実性」がこれらの金融危機の発生と中央銀行による政策とにどのように関係しているかということである。具体的な統計データはほとんど出てこないが、質的な議論で本質に迫っているのはとても面白い。
「ナイトの不確実性」とは
その確率分布を推測することが不可能な不確実性(P79)
のこと。このような不確実性に対して、あえて挑戦するのが企業家であり、また市場においてのバブルの発生もこの不確実性が原因だという。確かにIT革命も企業買収もBRICSの成長も過去に似た現象があったわけではないから、確率を見積もるのが不可能だ。
ここで面白いのが、通常の確率分布がわかっている不確実性(リスク)に対しては、そのリスクプレミアムを計算する方法が知られているが、エルスバーグによる「不確実性プレミアム」の導入によって、ナイトの不確実性に対する人々の評価を数値化して、経済学の通常の分析手法が適用できるようにしたことである。
金融危機に対してFRBが金融緩和策をとった理由もこれを読むとわかる。グリーンスパンはバブルは事後的にしかその存在は確認できないとして、事後的な結果に対して速やかに対応する、という作戦をとったが、バブルというものがナイトの不確実性から来るものであれば、正しいように思える。
2007年の夏に発生したサブプライム問題も、新種の住宅ローンであるサブプライムが証券化されてたが、歴史が浅いために正しく確率分布が推測できないという「ナイトの不確実性」が存在したためだという。金融技術の発達(証券化)により、この問題が拡散したというのは皮肉だ。