メディア・バイアス
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)
- 作者: 松永和紀
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/04/17
- メディア: 新書
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良くあるメディアリテラシーの類の本だが、報道する側にいる人が自らの体験を交えて書いてあり、情報の受け手だけでなく、取材する側、取材される側、研究者についての問題点も提起している。良書である。
第1章では納豆ダイエットや白インゲン豆ダイエットの問題から、健康情報番組の手法的な問題を次の3つ
- 都合のよい研究成果のつなぎ合わせ
- 信用ならない体験談
- 結果を信用させる白衣の科学者
に集約している。そういう論文があるとか、ある結果が出た体験者がいるなど、捏造とはいえないまでも、製作者の意図から検証なしにつなぎ合わされたストーリーが一番たちが悪いですな。テレビ番組のこういう作り方に代表されるように、センセーショナルな結果ありきで、視聴率稼ぎの番組、スクープ狙いの記事、そして広告、が作られる現状を踏まえ、メディアの受け手のあるべき態度を論ずる。これが本書のテーマのその1。
第4章では、メディアは「警鐘報道」をしたがるということを述べている。安全だ、問題ない、と宣言するのは責任を伴うが、危険だと警鐘を鳴らすのは責任が発生しない。マスメディアの中にいる人が、会社員として出世するため、フリーのライターとして仕事を取るため、「危ない」ということを報道する方が楽でありかつ、スクープになりやすいという費用対効果が高いのだろう。個別の問題で取材姿勢を改めるとか、間違った報道をしたので謝罪する、といった対処の仕方では解決できない根深さを感じる。そういう報道する側の構造的な問題が、本書のテーマその2。
第8章、第9章でマイナスイオンや遺伝子組み換え作物の問題をとりあげる。効果があるのかがよく分からないまま、マイナスイオンはよいというイメージで多数の工業製品に機能がつくなどブームになってしまった。一部の(トンデモ)科学者の主張した遺伝子組み換え大豆の問題に、メディアが飛びついて騒動になった。他の研究者はなぜメディアの問題を批判しなかったのかなど、研究者側の問題が、本書のテーマその3。
環境ホルモンや三菱自動車など、メディアで大きく報道されたもの以外で、この本で取り上げられている面白いトピックをメモ。
- 「化学物質無添加」石けん
- 「有機食品が通常の食品に比べて、より安全とかより栄養があるという科学的根拠は現時点でない」と2003年にイギリス食品基準庁が見解
- 味噌が今のようにおいしくなったのは、戦後の農林省主導の味噌作りの近代化の指導によるもの
- 「水からの伝言」に基づいて2001年に公明党の松議員が国会質問をしている
- 遺伝子組み換え作物の問題の出所は、ロシアの科学者
- トランス脂肪酸の規制で乳製品の生産国のデンマークやパーム油の生産国のマレーシア・インドネシアは有利になる
- 小中学校のインターネット学習で、「食の問題」を検索してまとめることで「トンデモ議論」が検証なしに再生産される
ブログや掲示板でのメディア批判は多いけれど、メディアに対する「警鐘」を鳴らしているだけで、責任を取ろうとしていないものが多いという点では、同じか。ただ、研究者や生産者からメディアを通さずに直接情報発信をしようとしているものも出てきているのは、救いがある。特に、本書で取り上げられている食品安全情報のblogは秀逸なので、リンクしておこう。