tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

明日を支配するもの

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命

ドラッカーなんてらしくない本を読んでいます。彼が最晩年に書いた21世紀のマネジメントの方向性を示した本。これを著した時には齢80を越えているはずなんだけど、ここまで世界を分析できている洞察力に脱帽です。正直なところ、経営学なんて成功者の後付けの理屈だと思っていた(かつて周りにそういう議論をする人が多かったので)が、認識を改めました。

第4章「情報が仕事を変える」では、普段技術屋視点で考えていた情報技術について、経営学の立場からみたとき何が重要かを教えてもらった。ここで論じられているのは主に組織が意思決定を行うのに必要な情報は何かという点で、コスト計算だけでなく成果を管理することの重要性を述べ、成果を産むための情報は何かということ。他に気になる文章をピックアップ。

  • 新しい情報革命は会計主導による
  • ITが印刷メディアを駆逐するのでなく、印刷メディアが流通チャネルとしてITを占領しつつある
  • データを情報に変えるものは知識労働者本人である

第5章「知的労働の生産性が社会を変える」では、仕事の効率を上げるための方法を学問として歴史的な視点(テイラーの手法など)から解説し、今後の中心課題を挙げている。曰く

  • 知識労働では、重要なことは仕事の目的である。・・・肉体労働では、重要なことは仕事の方法である。
  • 知識労働者を生産的な存在とするためには、資本材として扱わなければならない。
  • 資本ではなく知識労働者が統治の主体になったとき、資本主義とは何を意味することになるか。

残念ながら現在の日本のIT業界では技術者は肉体労働者と同じように扱われている。上流工程と下流工程にわけていたり、原価計算を人月で行ったり。変えていくには会計や経営を含めた組織全体が変わらないといけないんでしょうね。


その他、第6章「自らをマネジメントする」も示唆に富んでいて、全体としても鋭い考察が多くファンが多いのも頷ける。ドラッカーは分析学者というよりも社会組織に関心を持つ思想家という方がいいのかもしれない。議論の正しさが、著者の信念とそれほど多くない事例に依存しているというのは、違和感がまったくないというわけではないのですけど。