その数学が戦略を決める
- 作者: イアン・エアーズ,山形浩生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/29
- メディア: 単行本
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絶対計算とは?現実問題の意志決定のために巨大なデータを統計的に分析すること。ここでは主に回帰分析やニューラルネット(すこしだけベイズ推定)を使っている。統計技術的な話はほとんど出てこなくて、こういう定量的な分析手段の精度が上がってきたこと、これを実際の意志決定に使うとどうなるかということ、を論じたもの。著者は法律が専門。数学の本ではない。和訳の題名はあまりフィットしていないように思える。
法学者らしく裁判の結果予測や、政府の政策立案、医療における診断支援、有効な教育法、映画のヒット予測、ワインの価格など、多くの実例を挙げている。
社会調査の時のサンプルを選ぶのに無作為抽出をするのはよく聞くが、アメリカやメキシコでは政策が効果があるかを検証するのに無作為サンプルを選んで試してみるというのは、驚いた。アンケート調査だと設問の作り方や文章による回答をどう解釈するかで定性的な結果になるが、政策を実行してみるというのは定量的な結果が得られるので説得力があるのだろう。私は不勉強なのでよく調べていないけど、日本の行政でもそういうことをしているのだろうか?*1
技術者視点ではデータマイニングの手法的なものに関心が行きがちだった。Amazon のおすすめ商品や、パターン認識などに使われているのは知っていたけれど、その数字を意志決定者がどう使うのか、という点を考えさせてくれた。近い将来、個人の意志決定を絶対計算によってサポートするようなサービスが出てくるだろうし、企業や行政も使うようになるでしょうね。
社会科学者の仕事は、哲学的な思索から絶対計算の前処理をすることに変わってしまいそうな気もする。それはそれで仕事は増えそうではありますが。
本としては面白いです。「ヤバい経済学」が面白かった人はぜひ。