tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

数学で犯罪を解決する

数学で犯罪を解決する

数学で犯罪を解決する

数学者が出てくる刑事モノでも、プロファイリングが鍵となる心理サスペンスでもない。

アメリカの刑事ドラマのもとネタ解説本。ただの刑事ドラマではなく、題名どおり数学の手法を駆使するのだが、これはそのストーリーを追うのではなく、数学の中身を噛み砕いて説明するようなもの。

もちろん犯罪に役立つぐらいだから、純粋数学というよりも応用数学、とくに統計関係に偏りすぎているきらいはあるが、意外な応用範囲が紹介されているのは一読に値する。データマイニングベイズ推論、暗号、ネットワークの数学、リスク分析など、最近数学関係のネタになったテーマはほぼ網羅されていて、多少のこじつけはあるにせよ、もとのドラマでこれらを取り上げた脚本家の努力と調査には素直に脱帽。日本のドラマもこれぐらい力を入れて作ってほしい。

私があまりなじみのなかったテーマとしては、変化点検出、証拠の信頼性。前者では野球選手がステロイド剤を使い始めたのかがいつかを分析する話。産業界では工業製品の品質管理、医療モニタリング、環境保護の分野で使われているらしい。ソフトとして実装するのはそれほど難しくなさそう。誰か作っていないか、後で調べてみよう。

証拠の信頼性の話では、指紋が一致したことで無実の人間を投獄した可能性を統計分析する。指紋は事実上固有のものだと思われているが、その同定法は一般的にはいくつかの特徴点での比較に過ぎないことから、異なる人が一致する可能性はわずかながらある。とすると、指紋のデータベースで検索してヒットしたからといって、犯人であるとは限らない。

著者キース・デブリン、訳者山形浩生ならば、面白いのは当然か。この本では訳者あとがきのコンパクトな説明も秀逸。