tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

資本主義は嫌いですか

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

竹森先生の本は、『1997年--世界を変えた金融危機』も読んだんだけど、これはその続編というか、上級者向けの本。ちょっと難しいけど、読み応えあるぞ。この10月の世界的な金融危機の背景にある構造的な問題を9月に出した本で解き明かしてしまっています。サブプライムの前後でバブルや金融政策に対する考え方は変わってしまったのかもしれない。

3部構成。第1部はバブルについて。ジョン・ロウのミシシッピー会社を引き合いに出して、バブルの功罪を語る。「動学的効率性の条件」が満たされていない場合はバブルが経済効率を改善することがありうる、というティロールの議論と、バブルの崩壊による経済の後遺症を研究したロゴフの議論を紹介している。さすがにこのレベルの議論だと、完全に理解できたとは言えないけれど、紙幣というタダの紙切れに価値を与えている通貨制度そのものもある意味バブルであるとか、賦課方式の年金制度は公営ねずみ講である、という議論は極端なたとえだけれども、それぐらいの視点でバブルを考えるということが新鮮でありました。

サブプライム危機については、本来リスクが高いはずのサブプライムローン証券化されて高い格付けを得る「錬金術」のからくりを詳しく解説。それ以外の住宅バブルの起こった背景として、新興国で投資対象が不足して資金が先進国に流入していることも指摘している。

筆者の意見としては、世界経済の成長率を現在よりも引き下げることによって、矛盾はほとんど解決すると述べ、その理由も上記の議論からわかりやすく説明されている。ただし、日本を含めた先進国がそういう政治決断ができるかどうか、が問題。

第2部は前FRB議長のグリーンスパンの退任を記念したテーマのシンポジウムでの話。この中でのラグー・ラジャンの報告について、その背景、ある意味予言した内容、与えた影響などを詳しく解説。金融技術の発達によりリスクを引き受けることによるプレミアムを投資収益として組み込めるようになったこと、銀行が一番危険な資産を抱え込むことになること、バランスシートの時価会計の採用が逆に金融システムのリスクを拡大することになったこと、など。

第3部は流動性の話。第2部でも少し出てきた時価会計の採用が、金融機関のレバレッジを変動拡大する方向に作用していて、それが長期資産の評価が下がった場合には時価会計を通じて危機の連鎖が発生するということの話が中心。そもそも流動性とかファンダメンタルズとはなにかという議論にまで発展していて、大変おもしろい。