理性の限界
理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)
- 作者: 高橋昌一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/17
- メディア: 新書
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架空の論理学者、科学主義者、科学史家、数理経済学者による紙上討論会の形式をとったエッセイ。形式から論じるのは正当ではないかもしれないけれど、著者自身をある特定の立場に置くのでなく、相対的にすることによってテーマをうまく説明できている。ガリレオの新科学対話のようなもの。
内容は、選択の限界、科学の限界、知識の限界の三部構成。最初はアロウの不可能性定理を中心とした経済学に関連した議論、2番目はハイゼンベルクの不確定性原理などの物理学、最後がゲーデルの不完全性定理にいたる論理学の話。著者の専門が論理学・哲学なので、ゲーデルの不完全性定理についてはスマリヤン教授の例を引きながらテンポのいい議論になっている。物理学についての話は、理系出身者から見ると量子力学の入門書レベルの議論に終わっていて、新しい見方を与えたり、新たな議論のきっかけにはなっていないが、どこに限界があるのかという啓蒙書としての役割は十分に果たしている。
参考までに2重スリットの実験の動画。
「完全に民主的な社会的決定方式が存在しない」というアロウの不可能性定理も、今となっては古典的な議論なのかもしれないが、最近は経済学に心理学的な要素を加味して考察する手法が注目されているようなので、もっと脚光を浴びてもいい定理だと思う。簡単に説明すると個人の選好について、
- 選好の連結律
- 選好の推移律
の2条件および、社会の意思決定に関して
- 個人選好の無制約性
- 市民の主権性
- 無関係対象からの独立性
- 非独裁性
の4つの条件を満たす社会的選択関数が存在しない、ということ。
現在は多数の新書が毎月出版されているが、多作の著者の本は、n番煎じのお茶を飲まされている気分になることが多い。これは寡作な著者の本だが、その分コンパクトな中に、内容は濃いが、読みやすく、新書としてクオリティは高い。おすすめ。