tkenichi の日記

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ウェットウェア

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ウェットウェア: 単細胞は生きたコンピューターである

ウェットウェア: 単細胞は生きたコンピューターである

ウェットウェアとは、聞き慣れない言葉だが、細胞内で情報を扱うプロセスのことで、ハードウェアとソフトウェアの中間に位置づけられる。この本では、単細胞生物が意思決定をする仕組みをタンパク質が行う計算で説明する。コンピューターの黎明期には、神経細胞など生物学の比喩でコンピューターの仕組みが設計され、説明されてきたが、ここでは逆にタンパク質をトランジスタに、酵素を論理回路に、単細胞生物をコンピューターにたとえて説明する。

生物現象をコンピューターの比喩で説明しているが、似ているということを強調するだけではない。コンピューター(半導体)との対応関係を考えることによって、生物の特質を明確にしているのも面白い。それは、周りの環境に応じて、自分自身を変化させることができるということ。すなわち新しい回路ができるということ。この辺は遺伝の話と絡めて詳しく論じている。

複雑系のコンピュータシミュレーションをしたことのある人は、単純なルールから多様な現象が生まれることを知っていると思うが、著者はそれは現実の歪曲だとして批判的である。生物の現象はさらに複雑であり、個体差があり、ノイズを伴う振る舞いをしている、とのこと。

この分野の研究者が自分に向けて研究のまとめを記述するようにして書いた、ポピュラーサイエンスの本だが、単純化して理解させようとせずに書いているために若干の読みにくさがあるかもしれないが、それは科学者としての真摯さだと感じられる。生化学の知識があまりないので、結構難しかったが、新しい分野の学問が始まるときのワクワク感が感じられた。