tkenichi の日記

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非対称の起源

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非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

非対称の起源―偶然か、必然か (ブルーバックス)

サイエンスの本で面白いのは2種類あると思う。ひとつは難しいとわかっているテーマ(素粒子とか遺伝子とか)について、新たな知見を与えることで、そのテーマをさらに深く掘り下げていくもの。もうひとつは、別々のテーマのものが思わぬつながりを持っていることを気づかせて、知的領域を広げてくれるもの。後者のタイプのものが好きな人にはこの本はとても楽しめると思う。

対称性がある法則は美しいと考えられている。一方で、右利き左利き、右脳左脳、アミノ酸光学異性体素粒子物理学における対称性の破れ、といった非対称な現象も数多く見られる。非対称な事例を数多く集めて、網羅的に解説するとともに、一見無関係な事柄の間の関連を見出すことによる面白さがこの本の魅力である。

興味深い仮説が2つ述べられていたので紹介しよう。

ひとつ目は、弱い力のパリティが保存されないことから来る非対称性から、L型アミノ酸の優位性が説明できるではないかということ。L型アミノ酸の優位性が地球上の進化の過程で偶然に起こったものではないことは、宇宙から飛来した隕石に含まれるアミノ酸についてもL型が優位であるという分析がなされていることからも推測されている。ただし、宇宙全体でL型アミノ酸が存在するところは局所的で、太陽系がその場所に含まれているだけだという説もある。この場合は中性子星が発する円偏光された放射線がその原因ではないかと考えられている。

ふたつ目は利き手に関する遺伝的モデルである。C遺伝子とD遺伝子があるとして、CC型の人は右利き、左利きになる人は50%ずつ、DC型の人は、右利き75%、左利き25%、DD型の人は右利き100%になる。このモデルで一卵性双生児の10~20%が右利きと左利き一人ずつからなること、両親の一人が右利きでもう一人が左利きのときに子供が左利きになる割合が、両親が二人とも右利きのとき、二人とも左利きのときの割合のほぼ中間になることをうまく説明できるのだそうだ。