tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

対称行列の部分空間に関する断面

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Rayleigh 商と Schur Complement をつなげるような話。

定義

実 n 次元空間の中の m 次元部分空間の正規直交基全体からなる Stiefel 多様体

 V_{n,m} = \{ Q \in \mbox{Mat}(n,m) | Q^{T} Q = 1_m \}

実 n 次元空間の中の m 次元部分空間への射影作用素全体からなる Grassman 多様体

 G_{n,m} = \{ R \in \mbox{Mat}(n,n) | R^{T} = R, R^{2} = R, \mbox{rank} R = m \}

射影は

 V_{n,m} \ni Q \mapsto G_{n,m} \ni R = QQ^{T}

で与えられる。
射影作用素 R が与えられたとき、1-R は直交補空間に対応する射影作用素である。

 G_{n,m} \ni R \mapsto G_{n,n-m} \ni 1-R

n 次元対称行列 A と m 次元部分空間 M の正規直交基 Q が与えられたとき、Q への断面(以前の日記で縮退と呼んでいた、行列Rayleigh商ともいう)を  Q^{T}AQ とする。これは m 次元対称行列である。M への射影作用素 R が与えられたとき、制限射影を  R^{T}AR とする。これは n 次元対称行列である。

補題

断面  Q^{T}AQ固有値  \lambda固有ベクトル v とする。このとき  Qv は制限射影  R^{T}AR固有値  \lambda固有ベクトルである。

Q を j=1 番目から j=m 番目までの単位列ベクトルからなる場合  Q = \left[ \begin{array}{c} I_m \\ 0 \\ \end{array} \right] もとの対称行列 A をブロック化して  A = \left[ \begin{array}{cc} A_{00} & A_{01} \\ A_{10} & A_{11} \\ \end{array} \right] とすると、
断面  Q^{T}AQ = A_{00} であり、 R = QQ^{T} とすると、 R^{T}AR = \left[ \begin{array}{cc} A_{00} & 0 \\ 0 & 0 \\ \end{array} \right] である。
 Q^{T}AQ = A_{00} 固有ベクトルを v とすると、 Qv = \left[ \begin{array}{c} v \\ 0 \\ \end{array} \right]  R^{T}AR = \left[ \begin{array}{cc} A_{00} & 0 \\ 0 & 0 \\ \end{array} \right] 固有ベクトルである。A の固有ベクトルではないことに注意する。

補題

対称行列 A の制限射影  R^{T}AR は、R の直交補空間 1-R 上 0 である。

問題1

M が A のいくつかの固有ベクトルが生成する部分空間ならば、制限射影  R^{T}AR固有値(0を除く)は、もとの行列 A の固有値と一致する。一般に部分空間をどれくらいうまくとれば、もとの行列 A の固有値を近似できるか。そのときの誤差は評価できるか。

問題2

今までの議論で正規直交性を除いて、Stiefel 多様体を基全体からなるものとしたときに、どこまで議論が成り立つか。

対称行列  A = \left[ \begin{array}{cc} A_{00} & A_{01} \\ A_{10} & A_{11} \\ \end{array} \right] とすると、対称性から  A_{01} = A_{10}^{T} が成り立つ。このとき  Q = \left[ \begin{array}{c} I_m \\ A_{11}^{-1}A_{10} \\ \end{array} \right] とすると、Q は正規直交基ではないが、1次独立基ではある。
このとき、行列Rayleigh商  Q^{T}AQ = A_{00} - A_{01}A_{11}^{-1}A_{10} は Schur Complement に他ならない。