国家の品格
- 作者: 藤原正彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 新書
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数学者でもある藤原正彦氏による国家論。「論理」だけでは世界は破綻する、と言っているのだから痛快だ。なんとなく感じていた社会の違和感(アメリカの真似をすると言う意味のグローバリゼーション、賞讃すべき概念のはずの自由と平等からの喜ばしくない様々な帰結などなど)の原因をはっきりと示してくれた。
論理にはそれ自体に内在する問題がある、として
- 論理の限界
- もっとも重要なことは論理で説明できない
- 論理には出発点が必要
- 論理は長くなり得ない
の4つを挙げている。確かに、論理は議論に勝つため、自己を正当化するために使われていて、決して正しいことを示すために使われていないと言うことはある。論理が通っていると気持ちいいから信じたくなってしまう、というのもなるほど。
著者は、俗に言われる愛国心の概念をナショナリズムとパトリオティズムの2つに分けて考えるべきで、後者(祖国愛)を広めていこうとする。グローバリズムがもたらす効率性を否定するつもりはないが、それを突き詰めるのではなく、ローカリズムの方を考えるべきだという。日本において、ローカリズムの中核をなすのが美しい情緒と、それが育む文化や伝統であるから、情緒力を鍛えるような教育をすべき、と言う。もちろん論理力を軽視してもよいと言っているわけではない。
私も概ね賛成。ただ、情緒力をつけるために、若い感性の豊かなときにこそ古典的名作を読むべし、としているが、私は感性は年齢によってその方向性は変わるが豊かさは変わらないと思っているので、名作はある程度経験を経た年齢になってから読む方がそのよさをよく理解できるんじゃないかな、とは思う。
カルバン、ロック、アダムスミスにつながる古典派経済学の論理をかなり叩いているが、これに対する経済学者の反論は聞いてみたいところだ。