tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

リーマン計量の差の変分3

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連続体力学の概念とリーマン幾何の概念の対応を考えてみる。 \phi:(M_L,g_L) \to (M_E,g_E)をリーマン多様体の間*1微分同相写像とする。この写像は等長的(すなわち \phi^{*}(g_E) = g_L)であることは仮定せずに、等長的なものからどれくらい離れているかを考える。

ベクトル束に定義される微分写像 \phi_* : TM_L \to TM_E とする。これは連続体力学では変形勾配テンソルと呼ばれる。

ベクトル束の間の束写像  \psi : TM_L \to TM_E についてリーマン計量によって転置写像  \psi^T : TM_E \to TM_L が定義される。

 g_E(\psi^T(v),u) = g_L(v,\psi(u))

また、自分自身への束写像  \psi : TM \to TM が対称であるとは

 g(\psi(v),u) = g(v,\psi(u))

が成り立つ場合とし、正定値であるとは  u \neq 0 について

 g(\psi(u),u) > 0

が成り立つことをいう。

微分写像  \phi_* : TM_L \to TM_E とその転置から

 C: TM_L \xrightarrow{\phi_*} TM_E \xrightarrow{\phi_*^T} TM_L
 B: TM_E \xrightarrow{\phi_*^T} TM_L \xrightarrow{\phi_*} TM_E

なる自分自身への束写像が定義できる。これらは正定値対称である。連続体力学ではCを右Cauchy-Green変形テンソルBを左Cauchy-Green変形テンソルという。

微分写像  \phi_* : TM_L \to TM_E は正定値対称写像と直交写像に分解できる。

 \phi_* : TM_L \xrightarrow{R} TM_E \xrightarrow{V} TM_E
 \phi_* : TM_L \xrightarrow{U} TM_L \xrightarrow{R} TM_E

UVは正定値対称写像であり、Rは直交写像である。R は右分解と左分解に共通の直交写像である。次の図式は可換である。


\begin{array}{ccc}
 TM_L & \xrightarrow{R} & TM_E \\
 \downarrow \small{U} & \circlearrowleft & \downarrow \small{V} \\
 TM_L & \xrightarrow{R} & TM_E
\end{array}

直交写像 R は次の図式も可換にする。


\begin{array}{ccc}
 TM_L & \xrightarrow{R} & TM_E \\
 \downarrow \small{\phi_{*}} & \circlearrowleft & \downarrow \small{\phi_{*}^{T}} \\
 TM_E & \xrightarrow{R^{T}} & TM_L \\
 \downarrow \small{\phi_{*}^{T}} & \circlearrowleft & \downarrow \small{\phi_{*}} \\
 TM_L & \xrightarrow{R} & TM_E
\end{array}

また、 U = C^{1/2} および  V = B^{1/2} である。平方根は正定値対称テンソルの値をとるという意味で一意に決まる。 f_U(x) = x^{1/2} x=1 の周りでマクローリン展開すると、 f_U(x) = 1 + 1/2(x-1) + O(x^2) である。これを使って  U = f_U(C) = 1 + 1/2(C-1) + O(C^2) を得る。同様に  f_V(x) = x^{-1/2} x=1 の周りでマクローリン展開すると、 f_V(x) = 1 - 1/2(x-1) + O(x^2) である。これを使って  V = f_V(B^{-1}) = 1 - 1/2(B^{-1}-1) + O(B^{-2}) = 1 + 1/2(1-B^{-1}) + O(B^{-2}) を得る。それぞれの1次の項 1/2(C-1) 1/2(1-B^{-1})を 連続体力学では Lagrange 歪、Euler 歪と呼ぶ。

リーマン幾何 連続体力学
微分写像  \phi_* 変形勾配テンソル F
 C=\phi_*^T \circ \phi_* 右Cauchy-Green変形テンソル
 B=\phi_* \circ \phi_*^T 左Cauchy-Green変形テンソル
 \phi_* = R \circ U 右極分解したときの  U 右ストレッチテンソル
 \phi_* = V \circ R 左極分解したときの  V 左ストレッチテンソル
 U  Cマクローリン展開した時の1次の項  1/2(C-1) Lagrange 歪
 V  B^{-1}マクローリン展開した時の1次の項  1/2(1-B^{-1}) Euler 歪

*1:LはLagrange表示、EはEuler表示を意図している

リーマン計量の差の変分2

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前回の続き。まずは記号の定義。
(M,g_M)をリーマン多様体f:N \rightarrow Mをコンパクト多様体Nからのはめ込みとする。はめ込みで誘導されるリーマン計量を(N,f^{*}(g) =: g_N)とする。Mに定義されるLevi-Civita接続は、以下を満たす接ベクトル束の接続である。\nabla^{M}_{X}Xによる共変微分という。

  1. \nabla^{M}_{X+Y}(Z) = \nabla^{M}_{X}Z + \nabla^{M}_{Y}Z
  2. \nabla^{M}_{fX}(Y) = f\nabla^{M}_{X}Y
  3. \nabla^{M}_{X}(Y+Z) = \nabla^{M}_{X}Y + \nabla^{M}_{X}Z
  4. \nabla^{M}_{X}(fY) = (\nabla^{M}_{X}f)Y + f\nabla^{M}_{X}Y
  5. \nabla^{M}_{X}(Y) - \nabla^{M}_{Y}(X) = [X,Y]
  6. \nabla^{M}_{X}\langle Y,Z\rangle = \langle\nabla^{M}_{X}(Y),Z\rangle + \langle Y,\nabla^{M}_{X}(Z)\rangle

Mのリーマン計量から、N上のMの接ベクトル束TM|_{N}=f^{*}(TM)Nに接する方向と直交方向に分解できる。T_{p}M = T_{p}N \oplus T_{p}N^{\perp}として、この成分への分解をX = X^{T} + X^{\perp}のように書く。
N上の接ベクトルをM上の接ベクトルとみなして、共変微分したもののNに接する成分は(N,g_N)のLevi-Civita接続を与える。

\nabla^{N}_{X}(Y) = \nabla^{M}_{X}(Y)^{T}

直交成分は第2基本形式を与える。

B(X,Y) = \nabla^{M}_{X}(Y)^{\perp}

平均曲率ベクトルは第2基本形式のトレースである。

H = \mathrm{trace}(B)


Nの直交方向の変分を考え、変分パラメータ\epsilonによる変分ベクトル場を\xiとする。\xiN上のTN^{\perp}の切断とみなせる。このとき、Nのベクトル場Xに対して、\langle X, \xi \rangle = 0および、\nabla^{M}_{\xi}X = \nabla^{M}_{X}\xiに注意する。変分に沿ってX,YNの近傍で定義されたMのベクトル場とする。このとき、N上で次の式が成り立つ。

\begin{eqnarray}
\left.\frac{d}{d\epsilon}\right|_{\epsilon=0} \langle X,Y \rangle & = & \nabla^{M}_{\xi} \langle X,Y \rangle \\
& = & \langle \nabla^{M}_{\xi}X,Y \rangle + \langle X,\nabla^{M}_{\xi}Y \rangle \\
& = & \langle \nabla^{M}_{X}\xi,Y \rangle + \langle X,\nabla^{M}_{Y}\xi \rangle \\
& = & - \langle \xi,\nabla^{M}_{X}Y \rangle - \langle \nabla^{M}_{Y}X,\xi \rangle \\
& = & - 2 \langle \xi,B(X,Y) \rangle \\
\end{eqnarray}

一般の線形代数の話で、正方行列に値を持つ関数A(t)を考える。このとき、\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0} \det(A(t)) = \mathrm{trace}(\left.\frac{d}{dt}\right|_{t=0}(A(t))) \det(A(0)) に注意する。

\begin{eqnarray}
\left.\frac{d}{d\epsilon}\right|_{\epsilon=0} \det(g_N(\epsilon)) & = & \mathrm{trace}\left(\left.\frac{d}{d\epsilon}\right|_{\epsilon=0}(g_N(\epsilon))\right) \det(g_N) \\ 
& = & -2 \langle \xi, \mathrm{trace}(B) \rangle \det(g_N) \\
& = & -2 \langle \xi, H \rangle \det(g_N) \\
\end{eqnarray}


\left.\frac{d}{d\epsilon}\right|_{\epsilon=0} \det(g_N(\epsilon))^{\frac{1}{2}} = - \langle \xi, H \rangle \det(g_N)^{\frac{1}{2}}

すなわち、「はめ込まれた多様体の面積の法線方向の第1変分は平均曲率である」ことがわかった。*1

*1:局所座標表示を使わずに示せた

リーマン計量の差の変分

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自分なりの回答にはまだたどり着いていないのだけれど、問題の動機づけとその整理をしておく。

(M,g_M)をリーマン多様体f:N \rightarrow Mをコンパクト多様体Nからのはめ込みとする。はめ込みで誘導されるリーマン計量を(N,f^{*}(g) =: g_N)とする。Nにもともと与えられているリーマン計量を(N,h_N)とする。はめ込みは等長的(h_N=g_N)とは限らない。はめ込みの変分を\phi : U=(-\epsilon,\epsilon) \times N \rightarrow M とする。このとき、\phi|_{0 \times N} = fとする。 U上で定義されている誘導された計量を\phi^{*}(g)=:g_U、直積集合に自明に定義された計量を1 \times h_N =: h_Uとする。

汎関数 第1変分
Nの面積 -\int_N \langle H,\xi \rangle dvol(g_N)
リーマン計量の差g_U-h_U ?

ただし、Hは平均曲率ベクトル、\xiは変分ベクトル場である。
Mが3次元、Nが2次元の時の類推で、一般的な体積をMについては「体積」、Nについては「面積」と呼んでいる。前者の第1変分の式は平均曲率が0ならば極小曲面になることの証明の中で与えられる。後者の汎関数h_Uについては直積計量なので変分は0、g_Uについては、Nの面積の変分と同様の計算ができるはずである。

リーマン計量の差とは写像がどれくらい等長写像から離れているかを見るもの、すなわちひずみである。固体の変形エネルギーがひずみで、平面の変形エネルギーが平均曲率で与えられることの関係の数学的な説明をつけようというのがこの動機づけである。

曲げのエネルギー

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曲面の曲げのエネルギーは平均曲率の2乗を積分したものとして与えられる。

E = \frac{1}{2}\int_{S} H^{2} da

平均曲率は第二基本形式の固有値の平均値と定義されるが、幾何学的には曲面を法線ベクトル方向に膨らませたときに変化する曲面の面積の1次微分である。2次微分ガウス曲率とみなせる。

ポリゴンに対して離散的に計算する方法を考える。ポリゴン上に曲率を考える場合、ガウス曲率は点上のスカラー値として与えられ、平均曲率は辺上のベクトル値として与えられると考えられる。
曲面の曲げエネルギーは例えば http://mrl.nyu.edu/~dzorin/papers/wardetzky2007dqb.pdf (Wardetzky) に isometric bending model としてラプラシアンから導かれたものが提示されている。他に平均曲率Hの評価方法としては、
http://torus.math.uiuc.edu/jms/Papers/dscrv.pdf (Sullivan) に与えられている。計算してみると実はこれは等価なものだった。

Isometric bending model の図と合わせて、
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上の図のように頂点と向きづけられた辺を考える。前者のWardetzkyの方法は曲げのエネルギーを積分として与えているため、この通りの式ではないが、被積分関数を計算して整理すると、平均曲率は次の式で評価している。

 H = \cot\alpha_3 e_1 + \cot\alpha_4 e_2 + \cot\alpha_1 e_3 + \cot\alpha_2 e_4

一方、Sullivanでは、三角形の法線ベクトル  \nu_i を用いて次のように評価している。

 H = e_0 \times \nu_0 - e_0 \times \nu_1

これらが一致することを以下に示す。三角形の面積を  A_i とする。

 \begin{eqnarray}
 e_0 \times \nu_0 - e_0 \times \nu_1 & = & e_0 \times (e_3 \times e_1) / |e_3 \times e_1| - e_0 \times (e_2 \times e_4) / |e_2 \times e_4| \\
 & = & \frac{(e_0 \cdot e_1)e_3 - (e_0 \cdot e_3)e_1}{2 A_0} - \frac{(e_0 \cdot e_4)e_2 - (e_0 \cdot e_2)e_4}{2 A_1} \\
 & = & \frac{|e_0||e_1|\cos\alpha_1 e_3 + |e_0||e_3|\cos\alpha_3 e_1}{2 A_0} + \frac{|e_0||e_4|\cos\alpha_4 e_2 + |e_0||e_2|\cos\alpha_2 e_4}{2 A_1} \\
 & = & \frac{|e_0||e_1|\cos\alpha_1}{|e_0||e_1|\sin\alpha_1} e_3 + \frac{|e_0||e_3|\cos\alpha_3}{|e_0||e_3|\sin\alpha_3} e_1 + \frac{|e_0||e_4|\cos\alpha_4}{|e_0||e_4|\sin\alpha_4} e_2 + \frac{|e_0||e_2|\cos\alpha_2}{|e_0||e_2|\sin\alpha_2} e_4\\
 & = & \cot\alpha_1 e_3 + \cot\alpha_3 e_1 + \cot\alpha_4 e_2 + \cot\alpha_2 e_4
\end{eqnarray}

多面体を三角形分割3.1

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多面体の三角形分割から導かれる簡単な系。

トーラス結び目  K_{p,q} p=m, q=m-1 のものについては、 n=2m の多角形表示が存在することが知られている。 K_{3,2}はいわゆる Trefoil Knot で、6角形表示がある。 K_{4,3} T(4,3) - Knot Atlas は8角形表示がある。この種数は3であり、その種数を与える Seifert 曲面のオイラー数は-5である。8角形の向きづけ可能な三角形分割で、オイラー数-5を与えるものは三角形の数が18である。全列挙した結果、そのようなものは存在しないことがわかった。さらに大きな種数を与えるものも存在しない。従って、以下のことが言える。

 K_{4,3} の8角形表示について、頂点を追加せずに Seifert 曲面の三角形分割を与えることはできない。

多角形を三角形分割3

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多角形を三角形分割 - tkenichi の日記 の多角形の三角形分割の表を久しぶりに更新する。多様体かどうかを判定するアルゴリズムを見直して少し速くなった。

オイラー 向きづけ可能性 3 4 5 6 7 8 9 一般形
1 T 1 2 5 14 42 132 429 カタラン数 http://oeis.org/A000108
0 F 0 0 1 14 113 720 4033 http://oeis.org/A007817
-1 T 0 0 0 2 70 1144 12354 ?
-1 F 0 0 0 0 112 2400 28593 ?
-2 F 0 0 0 0 0 3944 150819 ?
-3 T 0 0 0 0 0 0 22230 ?
-3 F 0 0 0 0 0 1772 327294 ?
-4 F 0 0 0 0 0 32 324387 ?
-5 T 0 0 0 0 0 0 1014 ?
-5 F 0 0 0 0 0 0 89046 ?
-6 T 0 0 0 0 0 0 1244 ?
合計 1 2 6 30 337 10144 961443 ?

組み合わせ三角形ポリゴンの判定アルゴリズム(1)

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2次元の有限単体的複体を考える。頂点集合を自然数で番号付けして、三角形の集合と考えると、相異なる3つの自然数の組の集合と考えることができる。

 S = \{ (i_0,i_1,i_2) \in \mathbf{Z}^3 | i_0 \neq i_1, i_1 \neq i_2, i_2 \neq i_0 \}

四角形の頂点を 0,1,2,3 とすると、三角形分割して単体的複体とみなすと  \{ (0,1,2),(0,2,3) \} である。

次の条件を判定するできるだけ高速なアルゴリズムを考えたい。

  1. 単体的複体が多様体かどうか(すべての頂点の周りの位相が円板と同相であること、角錐の頂点同士がつながっているような構造がないこと)
  2. 向きづけ可能かどうか(向きづけられているかではない。メビウスの輪のような表裏がつけられないようなことがないこと)

最初の条件についての単純なアルゴリズムな例としては、各頂点においてそれを含む三角形の部分集合を考えて、その境界集合(1次元の単体的複体、すなわち線分の集合)を求め、その連結成分の個数が1であることを調べればよい。

2つ目の条件についての単純なアルゴリズムの例としては、隣り合っている三角形の境界の辺に三角形が異なる向きかどうかでマークをつけ、単体的複体上の一周する経路でマークのが付いた辺を横切るのが必ず偶数回かどうかを確かめればよい。

もっと高速に判定するアルゴリズム(とその実装)を探してみよう。