複雑な世界、単純な法則
- 作者: マーク・ブキャナン,阪本芳久
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2005/02/25
- メディア: 単行本
- 購入: 10人 クリック: 179回
- この商品を含むブログ (151件) を見る
科学ジャーナリストが書いた複雑ネットワークの解説書。ワッツやバラバシなどの研究者が書いた本とは違って、モデルの数学的な性質よりも鳥瞰的視点からの解釈で書かれている。脳、生態系、経済活動、をネットワークとしてみた時にどのように現象を説明できるか、など。
最初は有名なミルグラムの実験、ケヴィン・ベーコンゲームの話からスモールワールドネットワークについての紹介。スモールワールドネットワークについて多くの入門的な解説が、ノード間の距離の短さだけに焦点を当てているのに対し、この本ではランダムネットワークと対比しながら、クラスター化されていることと平均距離が短いことが両立していると言う、スモールワールドネットワークの本質がきちんと説明されているのがよい。
脳のネットワーク的な性質の話の後、インターネットのネットワーク的な性質を分析する中で、リンクが集中したノードの存在の文脈でべき乗則とスケールフリーネットワークの話が出てくる。そこからネットワークの話を離れて、河川の流域面積の分布などにもベキ法則が成り立っていることを見る。またネットワークの話に戻って、バラバシの優先的選択からハブを持つスケールフリーネットワークの生成過程を解説。ワッツ・ストロガッツのリンクをほぼ均等に分布していくつかのランダムなショートカットがあるスモールワールドネットワークを「平等主義的」、バラバシ・アルバートのリンクがハブと呼ばれるノードの集中した構造を持つスケールフリーネットワークを「貴族主義的」と名づけて対比しているのはうまい見方だなと思いました。
後半はネットワーク科学のほかの分野への応用の話が中心。航空路のネットワーク、インターネットの攻撃から強くする方法、生態系のネットワーク、感染症の蔓延するしくみ、などよく取り上げられる話が一通りまとめてある。
この手の本をいろいろ読んだ後だったので、どこかで読んだ話がほとんどだったが、還元主義で説明できないことをネットワークでどこまで説明できるか、という筋が通っていて、少し離れた視点で見れたのは面白かった。システムの頑強性と効率性の関係をネットワークの構造の関係でうまく説明していたのも面白かったです。