tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

「あたりまえ」を疑う社会学

「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス (光文社新書)

「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス (光文社新書)

副題に「質的調査のセンス」とあるので、計量化の難しい対象についての社会調査の方法論かと思って読んだのですが、フィールドワークによる社会調査についてのエッセイでした。データになってから統計的に質的なものを取り出す話や、データを取るための調査方法よりも、むしろ根源的な、対象者からどのように話を聞き出すかということに重点が置かれている。

「はいりこむ」「あるものになる」「聞き取る」「語りだす」という各章は、研究者が様々なコミュニティの調査を時間をかけて丹念に行ったフィールドワークの記録。閉鎖的な集団にどのようにして入り込んでいったのか、アンケートなどでは決して書かれないような本音をどのようにして引き出したのかなど、たぶん論文になったらここまでは書かないと思われることが生き生きと描いてある。下手な小説やドキュメンタリーよりも面白いぞ。特に研究者の心情の移り変わりが赤裸々に語られている第3章の大衆演劇の調査の話は秀逸。長期間入り込んで調査をしていく過程で調査をする本人が変わっていく様子がとても面白い。もちろん時間をかけてじっくりと調べることのできるような研究環境にいる人は限られているとは思うけど。

私は理系人間なので、フィールドワークは自分ではしないと思うけど、現実の様々な事象から抽象化したり理論化したりするプロセスは自然科学でも社会科学でも共通している部分もあるので、「あたりまえ」を疑う視点の重要性については共感できました。テレビを中心とするメディアの恣意的な決め付けに関する違和感については、いまさら言うまでもないことなのかもしれないけれど、メディアの影響力を考えると、もっと強調してもいいような気がしました。


「あたりまえ」だと思われているものを解きほぐして、問題を明らかにしていく手法という「エスノメソドロジー」という概念は恥ずかしながら初めて知りました。社会調査がどういう視点で行われているのかということや、フィールドワークの実態を知ることができて、面白い本でした。