途中でやめてもいい2項分布
行動ファイナンスに触発を受けて、いくつか「封筒裏」のシミュレーションをしてみる。古典的な金融工学では、価格変動の分布は正規分布に従う(中心極限定理から)としているけれど、実証研究からは必ずしも正規分布に従っているわけではないという結果がある。
そこで、投資家の行動として「何度も同じ賭け(=価格が上がるか下がるかの)を繰り返す」のではなく、過去の履歴の結果に応じて、同じ賭けを繰り返すかどうか、または賭ける金額を変えるかどうか、が変わってきたらどうなるかを考えてみよう。行動ファイナンスの研究結果によると、勝っているときには勝ちを確定したがり、負けているときには負けを確定させずに逆転にかける傾向があるということだから。そういう投資家の繰り返しに関する傾向を織り込んだ場合に、金融工学におけるいわゆる Fat Tail や暴騰暴落、バブルなどの現象の原因を見出せないだろうか??
最初の「封筒裏シミュレーション」として、コイントスの賭けをするときに、ある確率で賭けをやめるという選択肢を導入する。本当は履歴をみてその確率を決めるようにしたほうがいいんだけど、最初なので常にその確率は一定の場合を考えてみる。
- コイントスを100回繰り返す
- 確率 b でそれ以降の賭けをやめてしまう(コイントスの回数が0回の可能性もあり)
- 表が出たら+1点、裏が出たら-1点として、持ち点の分布を考える
確率が0のときは、100回繰り返す2項分布(得点が±1なので、平均が0で標準偏差が10になる)となるが、やめる確率が 0.05 および 0.1 のときには、そこからずれてくる。下の表が 10000 回のシミュレーションをしてみた結果。
確率 | 平均 | 標準偏差 | 尖度 |
---|---|---|---|
0.0 | 0.074 | 10.02867 | -0.03441 |
0.05 | 0.0001 | 4.381965 | 2.972895 |
0.1 | -0.0326 | 3.039484 | 2.233171 |
当たり前だが、途中でやめてもよいという場合には尖度が大きくなっている(つまり中心に分布が集中している)。シミュレーションはデータ解析ソフト R を使ってみた。追試できるようにスクリプトもおいておきます 途中でやめてもいい2項分布のシミュレーションスクリプト。source("bino.R") して、main(0.05) などと確率を与えて main() を呼び出してください。分布のヒストグラムをワーキングディレクトリに出力します。ヒストグラムの例も載せておこう。
すそ野が厚いような分布がどういうときにできるかがわかれば面白い。
しかし R は便利です。実はまともに触ったのは初めてなんだけど、当分はこれで遊べそう。尖度の計算は
install.package("e1071") library(e1071)
として関数 kurtosis() を使いました。