科学者と言う仕事
科学者という仕事―独創性はどのように生まれるか (中公新書 (1843))
- 作者: 酒井邦嘉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/04
- メディア: 新書
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いまさらこういう科学者になるための心構えを読むような年齢ではないのだけれど、たまには初心に帰るのもよいでしょう。本の構成としては、それぞれの章の始めに有名な科学者のエピソードを紹介して、その後で科学者と言う仕事の一面を紹介するというスタイルです。それぞれの章の中に『「分かる」とはどういうことか』『一に模倣、二に創造』『「個」に徹すること』などと言うトピックがあります。科学者としての基本的な心構えだろうが、研究が日常になってしまうと意外と忘れがちなことかもしれません。時間の間隔をおいて何度も読み返すと、その時々で多分違う感想を持つだろうと思います。
今回は第5章『発表のセンス』第7章『研究と教育のディレンマ』が心に残りました。前者は自己本位であるべき科学研究の成果をいかに他人に伝えるかと言う方法論です。
- 第一に、正しく
- 第二に、分かりやすく
- 第三に、短く
と言う3つのポイントを挙げ、これを実践するための「堀田の教え」
(1) 聴衆は完全に無知であると思え
(2) 聴衆の知性は千差万別であると思え
(3) 聴衆がおのおの自身より一段上のレベルまで理解できるようにせよ
を紹介してあります。耳が痛いですね。プレゼンを作るときは常に心しましょう。さらにインターネットで情報が簡単に手に入る時代になっても、論文の価値は変わらない、という当たり前と言えば当たり前のことを改めて強調しています。これからの若い研究者向けにはインターネットとの付き合い方について、もっとページを割いてあるとさらによかったかもしれません。
後者の『研究と教育のディレンマ』で語られている、
研究の動機づけを教育によって与えようとすること自体が、自然のならいに反することになってしまう.
というディレンマは高等教育に従事する人は多かれ少なかれ、誰もが感じていることだと思います。とはいっても、このディレンマにまともに向き合うことが、今の教育に求められているかと言うとそうではないのが残念なところです。ほめて育てることや、教育と言うサービス業に徹することが、学生の受けもいいし、今は学生の受けがいいことがよい教育かどうかの最も重要視される指標になってしまっているのですから。