tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

死因不明社会

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

ブルーバックスの本は、中高生のころに大変お世話になったが、ほとんどは科学を解説したり啓蒙したりするものだった記憶があるのだけれど、最近は問題提起や主張を述べているものもあるみたい。これは現在の社会システムにおける死因確定の問題点を指摘して、どのように変えるべきかを主張するもの。著者は病理医をしながら作家もしている人。私はミステリーは読まないので知らなかったが、医療ミステリーのベストセラー作家らしい。

日本の現在の解剖率はわずか2%で、死亡診断書は体の表面を見る検案のみで発行されているのがほとんどだそうだ。そのため犯罪等による異常死、医療ミスなども見過ごされかねないし、解剖しないことにより、医学の進歩のためのデータ集積もできていないという。

そこで著者が主張するのは、遺体をCTやMRIで画像診断するAi(エーアイ)*1を行うこと。これにより、死因の確定、解剖を行うべき症例の見極め、画像データとして蓄積する、異状死の発見、などの利点があるという。

「死因不明社会」になった原因として、医療システムの制度設計の問題、法律上の死亡診断書発行の手続きの問題などをあげている。著者は官僚がよっぽど嫌いなのか、かなり手厳しい。確かに、官僚は予算と法律を作ること(制度設計)に関心があって、それがどのように運用されてどのような成果が出たか(監査)についてはあまり関心がなさそう。

感想としては、問題提起とその対案としてのAiについては賛成。現在の医療で画像診断の果たしている役割が想像以上に大きいことにも驚きました。Aiが導入されて大量の画像データができたときに、それらを検索したり解析したりする技術がもっと重要になってくるんでしょうね。


著者の小説の登場人物がこの本にも出てきて対談をしているが、形式としては面白いけれど、架空の人間の対談なので、何がフィクションで何が正しいデータなのかが判別しにくいところ、結論があらかじめ決まっていて誘導尋問的に対談が進んでいるところ、が残念。

*1:情報の分野ではエーアイというと人工知能のことを連想してしまうのだけれど