tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

渋滞学

渋滞学 (新潮選書)

渋滞学 (新潮選書)

話題の本。おかたい教科書的な本かと思えば、そうではなく、各章が独立していて、一般向け講演会のような趣き。代表的なモデルであるASEPをもとにして、車の渋滞、人の渋滞、アリの渋滞、インターネットの渋滞など、さまざまな渋滞現象を解説している。アプローチは基本図を用いて交通工学の標準的な方法をとったり、セルラーオートマトン法に人間の社会心理やフェロモンの要素を埋め込んだり、余談的にだがパーコレーションやネットワーク理論にも触れている。

著者自身も工学と理学の間の架け橋となる人材の育成の重要性を述べているが、交通流や群集の振る舞いといった工学的な問題を、セルラーオートマトンという理学的な道具で解こうというのは、理学と工学の両方の要素がちょうどいい具合に入っていて面白い。さらにモデルが離散的なので、はじめからコンピュータに乗りやすいところも、今風といった感じ。最後の方でゲーム理論にも少しだけふれているが、さらに人間心理や意思決定の要素をモデルにうまく埋め込んだらもっと分野横断的で面白くなるのではないかな。

昔、学生の卒論テーマで交通流のシミュレーションをオートマトンでさせるということをやってみたけれど、学部だとプログラミング言語から教えて基本シミュレーションの基本モデルが再現できるようなところで時間切れなので、毎年同じような結果になってしまうのが残念だったなあ。そのときにこの本があれば、学年ごとにアプローチを変えてやらせていたかも。

モデルの成果というできることばかりではなく、現在では難しいこともちゃんと紹介しているところが科学的には好感が持てます。例えば粉粒体の理論(いまだに砂時計の落ちる時間を計算する基礎方程式すらまだできていない)やブラジルナッツ現象(容器に大きい玉と小さい玉の2種利を入れて振ると、大きな玉が上に出てくる現象)など。好奇心が刺激されますね。