tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

犯罪不安社会

犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)

犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)

最近の日本の治安が悪化しているとか、凶悪少年犯罪が多発しているだとか言うのは、統計的には根拠のないものだというのは、少し勉強した人なら常識だろう。そこからさらに踏み込んで、そういうことが間違って信じられた結果何が起こっているのか、犯罪者の実態はどうなのか、どうしてそういう報道がなされるようになったのかまで論じている本である。

まず犯罪統計の読み方について解説*1。統計上の検挙率が下がっている理由を、被害届けを積極的に受理したり、以前は民事不介入としていた人間関係、金銭トラブルなどの事件に対して積極的に対応するようになって、検挙率の分母が大きくなったから、としている。そして、警察の活動方針に影響されにくい統計として、人口動態統計での犯罪による死亡者数の減少をあげて、治安が悪くなったわけではないことを示している。

なぜ治安が悪くなったという印象が広まったのかは、特異な犯罪に対してマスコミが繰り返し報道して、モラルパニックを引き起こしているという面とともに、凶悪犯罪を解釈する言論人が、加害者ではなく、被害者に感情移入するようになったという傾向をあげている。確かに10数年前までは、凶悪犯罪の加害者に対して「社会の縮図だ」とか「現代人に共通する傾向だ」とか論じ、社会制度に原因を求めるような主張が多かった。しかし、2000年に全国犯罪被害者の会が結成されたのに象徴されるように、被害者の視点で報道されることが多くなってきている。

そこから社会は犯罪の予防、セキュリティにコストをかけるようになったのだが、防犯活動や地域安全マップなどが、その効果の検証なしに、むしろ犯罪報道で不安になった住民に対する「やりがい」を与えるものとして機能していると言う。

最後の章で紹介しているように、刑務所の現実について、老人や障害者の受刑者が多くなって、福祉施設のようになっているというのは驚きである。本来社会に出るための更生の施設という位置づけなのだろうけれど、社会に適合できない人の最後のとりでという現実は、もっと知られていいと思うし、凶悪犯罪の厳罰化や地域安全の強化では解決できることではない。


犯罪の問題については、間違った印象が与えられることによって、間違ったコスト(セキュリティ、行政、教育制度、住民活動など)のかけ方がされていると思うのだけれど、少なくともこの本の知識を前提に議論をしてほしいですね。

*1:よくマスコミがイメージ操作のためにやる、戦後まもなくの犯罪件数が多い時期を出さずにここ数年のわずかな増加をことさらに強調するなどの幼稚な手口は論外