tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

アニマルスピリット

アニマルスピリットとは、従来の経済学が切り捨ててきた人間の意思決定の不合理な部分を指す。もちろん基本的には合理的な判断をしているのだけれど、完全には合理的になりきれない部分があって、それがマクロ経済学理論に取り込まれていなかったことで、説明のつかない現象がおきた、とする。というと、最近食傷気味の行動経済学の本の一つか、という感じがするかもしれないが、マクロ経済学の基礎の上で、そこから何が足りないのかを記述しているので、あまたの不合理な意思決定をトピック的に拾ってきているものとは雲泥である。

前半では、アニマルスピリットの側面として5つを挙げる。

  • 安心
  • 公平
  • 腐敗と背信
  • 貨幣感覚
  • 物語

そして、アニマルスプリットが実際の経済的な判断にどう影響するのかを見ていくのが後半部分である。

安心をどう定義するのか、という問題はあるけれど、安心が増えるときの所得の変化を安心乗数として導入して、合理的な判断と、安心・信頼して合理的な判断を超えて行動することに違いを見出そうとしているのは面白い。
公平さについては、実験結果から合理的な経済動機を公平性への配慮が上回ることなどを挙げ、経済の取引においては、単に合理的だけではなく(主観的に)公平であることが、動機付けになるという。
腐敗と背信がなぜ時々生じるのか?エンロンサブプライムなどを例に挙げ、原則が堕落していく過程をアニマルスピリット的に説明している。
貨幣感覚、とはいわゆる名目値よりも実質値に意思決定が大きく影響されるということ。貨幣感覚を無視して作った自然失業率理論が現実から乖離している部分を説明しようとしている。
物語というのは、特別な側面というよりも、安心や公平などの側面を物語の中で理解しようとする人間の思考パターンのようなもの。

アニマルスピリットをモデルにどう取り込んでいくのかはまだ試行錯誤の段階なのだろうが、後半の事例では不況、金融政策、失業、貧困などの問題について、アニマルスピリットの視点から説明を試みている。

私自身はマクロ経済学を完全に理解しているわけではないので、著者の主張をどれだけ理解できたのかはわからないけれど、今まで説明できなかったことに説明を与えようとする試みは刺激的。古典物理学の限界から量子力学が生まれる段階のような印象を持った。