tkenichi の日記

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共感覚

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共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

4年前に「共感覚者の驚くべき日常」を読んで以来、久しぶりに共感覚について。共感覚を研究している認知心理学者の啓蒙書である。

内容のまとめ

  • 新生児期には誰もが共感覚を持っている
  • 脳波形による計測によると、新生児では聴覚刺激を与えると視覚野から信号が来るのが観察される
  • 一部の人を除いて、視覚野と聴覚野の経路は失われるが、失われない人は共感覚を持つ
  • この経路が残されるかどうかは遺伝的要因である証拠がいくつかある
  • 後天的な神経学的な疾患の結果としても共感覚が起こりうる

今までこのような認知心理学の研究は、このような症状を持つ人を観察すること、多数のサンプルをとって統計的に推測すること、が主な手法だったが、現代では脳の状態を可視化する MRI や PET を使った研究がなされている。

この本では、伝統的な行動データを扱うやり方、客観的な脳の画像を扱うやり方の両方を、その手法をも含めて説明しているのが大変わかりやすい。具体的にはフィッシャー流の統計学の初歩から、PETの測定の仕組みまで。啓蒙書では多くの場合、結論だけを紹介するか、または研究手法についてはあまり説明せずにたとえ話で済ましてしまう場合が多い。ここでは、読者が結論が正しいかどうかを判断するための材料をできるだけ出そうとしているのがありがたい。

この研究でやったことは何かというと

  • 色聴の共感覚を持つ人とそうでない人(統制群)について、単語を聞き取る場合と、純音(正弦波)を聞き取る場合の脳血流マップを測定
  • 単語から純音を引いた差分、共感覚者から統制群を引いた差分を比較
  • 先行研究で色の中枢があると思われているところは含まれていない
  • 左下側頭回後部、後頭・頭頂境界部に活動が見られた

である。

これを今までの他の実験結果とあわせてどう説明するかについては、結論を保留しているが、心理学が脳科学における可視化の力で、徐々に解明できているところが広がっているという、まさにフロンティアを追体験できる面白い本であった。