tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

エントロピーがわかる

f:id:tkenichi:20110814141400j:image

エントロピーがわかる―神秘のベールをはぐ7つのゲーム (ブルーバックス)

エントロピーがわかる―神秘のベールをはぐ7つのゲーム (ブルーバックス)

ブルーバックス読むのは何年ぶりだろうか。熱力学と統計力学情報理論にあらわれる、エントロピー。その間の関係をほとんど予備知識なしに説明しているのは見事。ただし、それぞれにおけるエントロピーの定義を明確にしていないために、形式的な証明を求めている人には期待はずれかもしれない。私の場合は、そういう形式的な理解はできているけれど、どこか腑に落ちない感があったので、それを解消するためイメージを持つために読んでみた。そういう意味では「当たり」の本だった。エントロピーがわかる、というのはエントロピーとは何かがわかるというよりも、エントロピーという概念で表される量がなぜ増え続けるのか、がわかるということである。すなわち、熱力学第二法則とは何かというイメージを持たせるのが主題である。

熱力学の第二法則をマクロな系(熱力学)とミクロな系(原子論的)とでどのように定式化されてきたか、ということから話は始まる。2章から5章まではサイコロを用いた思考実験のたぐいで、この手の思考訓練ができている人にとっては、ちょっと冗長すぎるように感じるかもしれない。

サイコロの思考実験から実際の物理現象をつなぐことで、6章あたりからエントロピー増大の法則が自然なものに思えてくるようになってくる。7章では大胆なことに、エントロピーを情報と同一視して理解するために、温度にボルツマン定数をかけたものを新たに温度としてエネルギーと同じ単位にすれば、エントロピーが無次元にできるとしている。これは同意。むしろこうすることによって、単なるエントロピーの公式が次元の違うものを結びつける式ではなく、同一視して理解するための式だと考えることが容易になるはずだ。

法則なので、決して成り立たない、とか、いつも成り立つ、といった表現にしなければならなくなるが、ほとんど1の確率で成り立つことをカッコ付きの「決して」とか「いつも」として表記することで、読者に注意を促すと同時に、確率的に正しい推論のような考え方が自然に導かれるのはうまいやり方だと思う。