tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

日本の行く道

日本の行く道 (集英社新書 423C)

日本の行く道 (集英社新書 423C)

久々の橋本治である。彼の文章の特徴は、ゼロから問題を再定義しながら考えていく方法。少ない前提から、論理を積み上げていくというのはある意味数学的でもあり、そのへんが私が好きな理由なのかもしれないけれど、反面、前提データの検証が甘かったり、小さな論理の飛躍が積み重なって「一発かます」過激な結論が出てくるところは、膨大な文献やデータを読み解いて答えを出そうとするタイプの人からは、拒否されるかもしれない。

さて、この本のテーマは「なにかがおかしい日本」の原因を探るもの。議論の始まりは子供のいじめ問題から。昔のいじめと今のいじめは違う⇒社会のありようが変わったから、という理解はありきたりだが、その原因として普通なら「教育」の中で犯人探し(受験戦争、ゆとり教育など)をするところだが、著者の場合はさらにその上の原因を探る。それは「日本人はもう金持ちだ」という状況だという。そこから教育へは「そんなに勉強しなくていい」というメッセージとなり、「する必要のない勉強をさせられている」というエネルギーの不完全燃焼が陰湿ないじめや学級崩壊の原因だとする。

地球温暖化という「救いのない現実」に対しては「産業革命以前に戻す」という結論から議論を始める。当然現実的には無理だということから妥協点を探り、「1960年代前半に戻す」という妥協点を探る。その象徴として「超高層ビルをなくしてしまう」を提案する。これも突拍子もないアイディアだが、これを元に中央と地方の関係を思考実験しているのは面白い。経済発展で追いつこうとしている中国に対して、フェイントをかけたほうが勝ち、という考え方はありだな。

機械を壊すラッダイト運動ははやらない、と述べているけれども、この本の言っていることは「豊かさ」(の概念)をぶっつぶすという意味での21世紀のラッダイト運動を示唆しているように思える。「豊かさ」が強くなると「人」の強さが相対的に弱くなる、とのことだから。


感想としては、いつもの橋本治節からすると、ちょっと切れ味が鈍いような。多分あまりに大きなテーマをあげすぎていて、話の中で話題がいろいろ飛びすぎているところもあるだろう。それぞれの話題で仮説を立てて思考実験はしているんだけれど、それ以上突き詰めていないのでどれも消化不良な感じ。オープンエンドで議論を終えるのは今の流行なのかな。一般とは違う切り口で問題を考えてみるきっかけとしてはいい。

でも、著者は地球全体がおかしくなった原因は、はっきりしている、と断言してそこから議論を始めているけど、どうなんだろう・・・??