tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

人は原子、世界は物理法則で動く

f:id:tkenichi:20100227111436j:image

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

数理的手法を使って社会を考えることが好きな人(私も)には、とても面白い本だと思う。取り扱っているテーマは少子化、人種問題、金融市場などの社会現象で、それを解き明かす手法としては、個々の人間をみるのではなくパターンを考える、ということ。人間社会が複雑で予測不能なことを、一人一人が複雑だからと考えるのではなく、単純なものでも集まれば複雑な現象が見られるという、物理学では自然な考え方を社会科学で適用してみようというわけ。例によってべき乗則で何でも説明してしまおうというきらいはあるけれど。

今の社会科学の研究の多くは、調査を行って事柄と事柄の間の相関を見つける、という応用統計学の一部門のようなものが多く、人々の行動パターンやメカニズムにまでは探求されない。むしろ調査の精度をあげることによって現象の説明力が上がると考えている節がある。人間の行動の法則性を見つけるのに、物理学の歴史で言えば、ティコ・ブラーエの観測結果がある段階で、ケプラーやニュートンの洞察力がまだない状態なのかもしれない。

経済学は従来、個人を合理的に判断する主体としてモデルを作成し、それなりに(!)経済現象が説明できることを示したが、それで説明できないことがあることも分かってきて、心理学的手法を使った行動経済学が脚光を浴びたりもしている。ここでは心理学にその説明を求めるのではなく、物理学的に、集団の適応的な行動と言う相互作用による自己組織化の観点から理解しようとしていて、市場の予測や組織の意思決定についてもいくつかは説明できているようだ。

複雑なことを理解するためにその構成要素の理解を深めるのではなく、重要性のない事柄を無視して単純化することで、そこからあらわれるパターンで理解しようとすること、社会は平衡状態にあるのではなく非平衡状態にあるのだから、結果ではなくてメカニズムを解明しようとすること、この2点が個人的には最も重要なことと感じられた。

社会科学系のシミュレーションのネタになりそうな話題としてはマイノリティゲーム、公共財ゲーム、(アクセルロッドとハモンドの)カラーゲームなど。社会現象と対応する物理現象、その理解の仕方については、余裕があればまとめてみたい。