tkenichi の日記

毒舌皮肉系恥さらし日記

寝ながら学べる構造主義

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

まえがきに

よい入門書は「私たちが知らないこと」から出発して、「専門家が言いそうもないこと」を拾い集めながら進むという不思議な行程をたどります。

とあるが、まさに「よい入門書」にふさわしい。知らない状態から、著者のペースに乗って読み進んでいるうちに、概念の読み解きと、現在に即したたとえ話で、頭の中に徐々に知識が貯まっていく過程は、知的エンターテインメントはかくあるべし、と思わせる。これは書き手の才能でしょうね。橋本治氏の書き方に似ている。


本論は、前史としてマルクスフロイトニーチェ構造主義に与えた影響を概観して、始祖としてソシュールをとりあげ、その後に「四銃士」として、フーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンの思想を読み解いていく。

前史に出てくる3人を構造主義的な流れで見たことがなかったのだが、思考や判断をする「主体」に対して、マルクスフロイトニーチェが、それぞれ階級、抑圧、外在的な規範、が影響を与えていると読み解いてくれる。アイデンティティが確立された主体がまずあるのではなく、関係性や振る舞いを通じて、主体が規定されるという、人間観の地動説から天動説への移行、と理解できました。明快。

ソシュールについては『ことばは「ものの名前」ではない』という副題で説明している。名前がつけることで観念が存在するようになる、ということ。語学学習をしているときに、ことばとそれの及ぶ概念の範囲が言語によって異なる、と言うことをうまく受け入れられるかと言うのは重要だと思うけど、それも元はといえばソシュール的な考え方だったのね。それが言語学からほかの領域に展開することで、構造主義が思想的に普遍的な位置を占めてきたということだそうです。

四銃士」の感想については項を改めて、気が向いたら書くことにします。


今思えば、私の場合、構造主義が掲げるものは、思想書よりも学生時代に勉強したブルバキ流の代数系で身に着いたのかもしれない。なので、普段意識はしていなくても構造主義的な考え方に染まっている部分がかなりあることを自覚したのでした。教科書の副読本と言う感じでも、専門書の準備のために読む本と言う感じでもなく、専門外の人が周辺領域をぱらぱらと概観するために読むのが一番楽しめるんじゃないかな。