数式を読みとくコツ
- 作者: 杉原厚吉
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
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数学専攻ではない理系の大学初年度生向けに書かれた本。『「数式は哲学だ」と割り切ってみよう』と大胆な提言をしている。数式や証明が絶対的なものではなく、書いた人や文脈によるということは、自然と理解できる人は気にしないことなんだろうけど、つまづく人はいい加減に書かれた証明やコンテキストを無視した数式に悩まされるのだろう。分かっている人には自明だったり自動的に補って理解していることを、噛み砕いて説明するというのは結構難しいことだと思うのだけれど、コンパクトな中にもエッセイ風に説明している。学生はもちろん、教育を担当している人にも参考になると思う。
一番価値があるのは等号についての意味を説明した第1章だろう。方程式と恒等式の違いは高校生ぐらいが悩むことなのかもしれないけれど、座標系に依存する式としない式を混同するのは専門家*1の論文にも多いので今でも悩まされる。オーダーについての慣用表現は、慣習として根付いてしまっているけれど、確かによくない表現だと思う。著者はオーダーを集合として
と書くべきだといっているけれど、わたしはむしろモジュロのように理解していたので、あえて書けば
こんな感じ。
第2章で言っているように、数式がなかったら表現力が劣るというのは、全面的に賛成。数式を使わないから分かりやすい、という言い方をよくするけれど、それはウソだというのが、この章の例文を見ればよく分かる。
第3章以下は無限、微積分、行列という大学1年生の数学でのつまづきやすいところの解説。「無限」については突っ込みどころはあるのだけれど、著者のような工学者の立場だと、こういう割り切った使い方もあるのかな、と思う。一点だけつっこんでおくと、99ページでの三角関数の極限の計算
を確認するのに、テーラー展開を使っているのはどうかと思う。の定義の問題でもあるのだが、テーラー展開はの微分を使って計算するので、循環論法になっている。
*1:工学系の人に多い気がする。左辺は太字なのに右辺は添え字が着いている式とか。