見えざる宇宙のかたち
- 作者: シン=トゥン・ヤウ,スティーヴ・ネイディス,水谷淳
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/03/28
- メディア: 単行本
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大栗先生の「重力とは何か」と同じく、第一線の研究者が自分の研究を一般向けに解説した本だが、こちらはほとんど手加減なしという感じで、大学学部レベルの数学と物理の知識がないと用語レベルでついていけないかもしれない。その代わりに、ひも理論をこれから勉強しようという人にとっては、理論の歴史的な背景とサーベイ的な解説が読めるという点で、これ以上のものはないのではないだろうか。ひも理論を構成するピースが誰の功績なのかということも几帳面に書いてあるので、論文を探す際の手引きとしても役に立ちそう。
内容はカラビ=ヤウ多様体を中心に、その生い立ち、ひも理論への貢献、物理学と数学とが絡み合いながら発展していく様子、現在のこの分野で残されている問題など。カラビ=ヤウ多様体とは、ひも理論で考えられている10次元の宇宙と4次元の時空の差の余剰次元に現れると考えられている図形のこと*1。分野的にはこの本では幾何解析と呼ばれている分野に属する。幾何解析の功績として筆者は、リッチフローを使ってペレルマンが解決したポアンカレ予想、ドナルドソン、フリードマン、ウィッテンらによる4次元トポロジーの研究、そしてカラビ=ヤウ多様体を挙げている。
本書の後半はミラー対称性、一般相対論とブラックホール、素粒子物理、真空崩壊などについて、カラビ=ヤウ多様体との関わりの観点から解説している。一般的な啓蒙書の解説と比べると難しいし、一度読んだぐらいではなかなかわからない。教科書や論文の副読本のような位置づけで読むのがいいと思う。
*1:ただし数学的に厳密な定義は、専門書を見てください