tkenichi の日記

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オープンサイエンス革命

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オープンサイエンス革命

オープンサイエンス革命

IT の世界では Linux をはじめとするオープンソース文化によりさまざまな人々の貢献の成果を利用することができるし、Wikipedia では専門的な内容の知識まで得ることができる。このような、いわゆる集合知をサイエンスの分野に使えないだろうか、またそれを実現するにはどうすればよいか、を論じた本である。

著者自身も理論物理学者としてサイエンスの研究者でもあることから、単なる集合知ではなく科学の発展のために何が必要かを理解している。思いつきや根拠のない楽観論ではなく、きちんと課題も整理されている良書であり、これはいまこのタイミングで読めてよかったと思う。

この本で議論しているオープンサイエンスの特徴を、まとめてみる。

専門家はどうしても知識が深くなる代わりに範囲が狭くなりがちである。ある問題を解決するには、その専門家の領域だけでは足りないことも多い。オープンサイエンスでは、多くの人のミクロ専門知識を掘り起こして問題を解決する。これを、問題とその解決手段を結びつける「デザインされたセレンディピティ」と呼んでいる。それを実現するためのオンラインツールとしては、課題を小さく分割して小さな貢献をしやすくすることと、参加者に解くべき問題をうまく誘導する注意のアーキテクチャが必要だという。

グループで意見を一致させるには、意見を評価する基準を共有していなければならない。数学の証明やプログラムの性能(実行時間)といった明確な基準があれば、集団で目標に向かって考えることができるが、政治や芸術のような評価基準が個人個人で異なるものは、結局集団での意思決定は多数決などの方法によらざるを得ない。この本では「共有プラクシス」とよんでいる、一定の知識とテクニックの体系の有無が、集合知を増幅させるための基本要件であるという。

理工系の専門教育を受けた人なら、科学の成果はデータの分析に基づくものであり、有用なデータを取ること自体が研究のお起きのプロセスであることを知っているだろう。しかしながら科学の発展により、大規模なデータを取ること自体が大きなプロジェクトになり、その結果としてその大規模なデータはかけた予算の見返りとして、多くの人に公開されるようになってきた。ヒトゲノムプロジェクトやスローン・デジタル・スカイサーベイなどだ。それが将来、知識を結びつけるデータネットワーク「データウェブ」になるはずだという。

オープンサイエンスのさきがけとなっているプロジェクト「ギャラクシーズー」や「フォールドイット」では、アマチュアの人々が科学の発展に貢献できる仕組みをうまく作っている。前者では大量の天体観測画像の中から新種の銀河が発見され、後者ではたんぱく質の構造を予測するための仕組みをゲーム化して、正確な折りたたみ構造を解明しようとした。このような科学の民主化によって、社会における科学の役割も変わっていくだろうという。


他にも、科学の分野でのオンラインコラボレーションの実例や、いろいろ示唆に富む問題提起など多数ある。ネットの意見なんて眉唾だと思っている理工系研究者はだまされたと思ってぜひ一度読んでみるといいのではないかと思う。オープンサイエンスが普通になる社会、夢物語かもしれないけど、世界がこの方向に進んでいくことに賭けたいと思う。